第百十八話 砂時計が尽きるまで③

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第百十八話 砂時計が尽きるまで③

「つーか、このやり取り、いつまでも続きそうだな」 「結愛のことだから、いつまでも続くと思うわ」 戦乱の中で、慧と観月は弟と妹が紡ぐ温かな光景を見守っていた。 奏多と結愛が抱く永久の想い。 その安らぎが、少しでも永くあることを願って。 しかし―― 「……分かりました」 奏多達の光景を目の当たりにしたレンが深刻な面持ちで告げる。 苦渋に満ちたその顔からは、その奥にある感情の機敏までは読みきれない。 「本来なら、『破滅の創世』様のご意志でお使いになられることが理想でしたが……仕方ありません」 それはただ事実を述べただけ。だからこそ、余計にレンは今の奏多の――『破滅の創世』の置かれた状況に打ちのめされていた。 奏多と結愛の温かな交流。 だからこそ、レンの胸を打つのはあの日の悲劇。 ここはそこへと通じる道だと痛いほどに思い出す。 「『破滅の創世』様。『破滅の創世』様の許可を頂く前に、記憶のカードをこの場で使用することをお許しください」 「記憶のカード……!」 警戒の表情を浮かべた奏多に対し、レンは恭しく礼をした後、小さく言った。   「リディアとアルリットが危惧していたのはこのことだったんですね。神である『破滅の創世』様が、人の心を持つこと。確かに危険な状態です」 レンは人の心という脅威を甘く見積もっていた。 これが『破滅の創世』が現在の状況に追い込まれた要因の一つだろう。 「『破滅の創世』様、必ずや一族の呪いからお救いいたします」 レンが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。 そう――もうすぐで手が届くのだ。 『破滅の創世』の配下達にとって、唯一無二の願い。 神として生きたい。 それを奏多が選ぶだけで――。 『破滅の創世』が示した神命。それは絶対に成し遂げなくてはならない。 遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。 『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。その御心に応えるべく献身していた。 それはこのまま『破滅の創世』を人という器に封じ込め続け、神の力を自らの目的に利用するという一族の上層部の悲願とは相反するものだった。 しかし、今、この場には奏多にとって大切な存在である結愛がいる。 この状況を変革させる手段を用いようとして、着々と準備を整えていたレンにとっては望ましくない状況だった。 「……何でだろ」 レンの意識が奏多に向けられている。 即刻、この場から立ち去らないといけないのに。 「動けない……」 奏多は油断すれば湧き上がる想いを前にして俯く。 渦巻く不安はどうしようもなく膨らんでいくばかりだ。
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