第百十九話 砂時計が尽きるまで④

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第百十九話 砂時計が尽きるまで④

「いや、動けないんじゃない。これは……」 奏多は刹那、気付いた。 身動きが取れない理由。それは内側から湧き上がる『破滅の創世』としての意思が、奏多の動きを制限しているからだと。 自身の記憶を取り戻すために――。 「早急に対応する必要がありそうです。『破滅の創世』様、ご無礼をお許しください」 レンはカードをかざすと、決意を込めた声でそう告げた。 「――っ」 その瞬間、奏多はまばゆい光に包まれて、意識が途切れそうになった。 レンがこの場で『破滅の創世』の記憶のカードを用いても、記憶を再封印されたことで、奏多が『破滅の創世』様の記憶を完全に取り戻すことはない。 しかし、それは言い換えれば、その事実が発覚した瞬間、今度は結愛達――此ノ里家の者達が狙われることを意味していた。 何とかしないと……。 朦朧とした意識の中、奏多はふらっと吸い寄せられるように、音もなく、一筋の光に吸い込まれていった。 靄(もや)がかかったように、視界が白く塗りつぶされていく。 身体の感覚も薄れて、まるで微睡みに落ちるようだった。 遠くなる意識の中、奏多は強く願う。 ずっと傍にいるって、結愛と約束したんだ。 だから、絶対に『破滅の創世』としての記憶に飲み込まれないーー。 その願った瞬間、望の意識は再び、闇に落ちる。 寂寞(せきばく)も冷えも焦りも、今は胸の底に沈んでいった。 ふと、奏多は目覚める。 寒い。 まるで吹雪く大地に立っているようだった。 しかし、胸元には温かい何かがあった。 とてもとても優しい、この冷たい中で、それは一際、熱を放っていた。 まるで守ってくれているように。 この温かい何かは何なんだろう? 怪訝に思う心とは裏腹に、奏多は言葉を吐き出す。それは奏多が抱いた想いを否定するものだった。 「人の心など、不要なものだ」 口にしたそれは自分が発したとは思えない無機質な、しかし懐かしさを感じさせる声だった。 人の心? 奏多は混乱する頭でどうにか想いを絞り出す。 この温かい何かは……人の心なのか。 そこに疑いを挟む余地はない。 この胸の温もりが全てを物語っていた。 再び、奏多は言葉を吐き出す。 「愚者の記憶などいらぬ。想い出など、必要ない」  それだけで奏多がーー『破滅の創世』が不要と断ずるには十分すぎた。 三人の神のうち、最強の力を持つとされる神『破滅の創世』は創造物の反抗を絶対に許しはしない。 弁解も反論も必要ない。故に人々は諾々としてそれを受け入れるしかない。 だからこそ、奏多はこの世界全てにあまねく終焉を告げようとした時――。
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