第百二十一話 砂時計が尽きるまで⑥

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第百二十一話 砂時計が尽きるまで⑥

「この絶望の状況を乗り越えて、ずっと奏多くんの傍にいたいですから」 結愛は決して、奏多を――『破滅の創世』を見つめることをやめない。 その存在は、彼女の世界のすべてなのだから……。 だからこそ、 「ゆ……結愛……」 涙が出るほどに穏やかな声が。 温かい温もりが。 確かに目の前に……現れた時。 「奏多くん!」   結愛は唇を軽く噛みしめ、そっと抱きついた。 「あ……」 喜びを滲ませた結愛の声が、忘我の域に達しかけた奏多を現実に引き戻す。 「――っ」 その瞬間、様々な負の感情が押し寄せてくるようで――奏多は頭を押さえて膝をつく。 「はううっ。……か、奏多くん、大丈夫ですか?」 そんな奏多の様子を見て、駆け寄った結愛は顔を青ざめる。 奏多の先程までの異変、そして先程の奏多の物言いが、まるで大きな意思――神の裁きによって下される罰のように聞こえたからだ。 しかし、結愛が生じた不安とは裏腹に、レンは息を呑み、短い沈黙を挟んでから宣言する。 「……なるほど。カードを用いても、『破滅の創世』様の記憶を取り戻すことができない理由。どうやら、記憶の再封印を施されたようですね」 レンは我が意を得たとばかりに微笑んだ。 奏多が――『破滅の創世』が記憶を取り戻せない理由が判明したことが大きかったかもしれない。 『破滅の創世』が示した神命。 それは絶対に成し遂げなくてはならない。 遥か彼方より、望みはたった一つだけだった――。 『破滅の創世』の配下達は主が御座す世界を正そうとする。 その御心に応えるべく献身していた。 「レン。あたしはね……叶えたいことがあるの。でも、それは『破滅の創世』様の記憶が戻らないと絶対に叶わない願いだから」 「分かっております。私も同じ気持ちです。一族の者の手から『破滅の創世』様をお救いしなくては……!」 アルリットの宣誓に呼応するように、レンは一族打倒を掲げる。 『破滅の創世』の配下達の気持ちは皆同じだ。 その想いを、何時の日か結実させることだけを己に誓って。 レンとアルリットはそのまま無造作に右手を斜め上に振り払う。 「――きゃっ!」 たったそれだけの動作で、レンとアルリットは結愛とその周囲にいた『境界線機関』の者達を楽々と弾き飛ばした。 喰らった力の凄まじさは結愛達がうめき、身動きが取れなくなるほどだ。 その間に、奏多を取り囲む『境界線機関』の者達。 この場にいる『境界線機関』の者達の半数――『境界線機関』を監視する一族の上層部の内密者達は、レン達の手駒にされている。 彼らはみな、虚ろな眼差しで、とても正気の沙汰とは思えなかった。
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