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第十三話 近くて遠い存在①
「敵の動きが変わった……?」
遊撃として神獣の群れを倒すべく駆ける一族の者達も周囲の状況が見る間に悪くなっていることを理解していた。
もとより戦線撹乱が目的の神獣の群れは、攻撃されても動きが止まることはない。そして目の前に現れた少女は彼らの心の支え足りうる。
最悪の循環が生まれていた。
それでも死線の狭間で一族の者達は奮闘する。だが、神獣は無限湧きみたいなものだろう――故に、焦らず冷静に。
奏多を護る盾としてあり続けるのだと、彼らは強き信念と共にここにいる。
彼ら誰一人の踏ん張りも足りなければ、或いは戦場は瓦解し、即敗北も肌一枚の先にあった。
「なっ……?」
少女は奏多の前で膝をつく。それはさながら騎士の示す臣従の礼のようだった。
「『破滅の創世』様、いつかは……全てを分かってほしい……」
銀髪の少女――リディアが発した決意の言葉は、刹那の迷いすらなかった。
「一族の者は全て、『破滅の創世』様に目を付けて、私欲のために利用しようとしている愚か者だ」
最強の力を持つとされる神『破滅の創世』を人という器に封じ込め、神の力を自らの目的に利用する。その一族の行為は『破滅の創世』のみではなく、他の神全てに対しての裏切りだ。
『破滅の創世』の配下であるリディア達にとって決して看過できない行為だった。
「そんなこと――」
「信じる信じないは我が主の自由だ。だけど、わたし達は一族の者の愚行によって……絶望を見ているんだよ」
その言葉の端々に戦慄を覚えることすら忘れて。
奏多は目の前に佇むリディアにただただ意識を奪われ続けている。それでも――
「そんなことないです! 私達にとって奏多くんは大切な存在です!」
「……結愛!」
結愛は勇気を振り絞り、奏多の前に立った。
全ての発端は強大な力を求めた一族の愚かな渇望だった。
相手の言い分が正しいことも理性ではきちんとわきまえている。しかし、感情で納得できるかはまた別の話だった。
「私にとって、奏多くんは奏多くんです。奏多くんは約束してくれました。絶対に傍にいるって……」
カードを掲げた結愛は一度だけ目を伏せ、そしてリディアをまっすぐに見つめる。
「だから、『破滅の創世』の配下さん達には奏多くんを渡しませんよ」
出る杭は打たれるもの。
いずれ来る未来を待ちきれずに走り出した結愛へ、恐らく世界は容赦なく牙を剥くだろう。
どこまで行けるのか分からない。神と人間、この関係が正しいかも定かではない。
それでも奏多と結愛の心は今、確かに響き合っている。
人間と神が何の隔たりもなく、共に過ごしていく。
きっと、いつか夢想しただろう、そんな光景。
その儚い夢の輪郭をこの場で垣間見て、結愛は激闘の囀(さえず)りとともに震え落ちた。
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