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テーブルの上に、小さな瓶が置いてある。
虹色に揺らめく。海の上で煌めく波のような、深海のような、白砂の浜辺のような、夜明けのような、夕陽のような、星空のような、桜のような色の液体の入った。
「このお薬を飲むとね、素敵な夢が見られるの」
君の微笑みが、僕を惑わせる。
気づけば、テーブルから溢れるほどの瓶がある。
「この色はね、」
ミステリアスに微笑む君を前に、月明かりの瓶だけには指を向けられなかった。
だって、あまりに君に似ていたから。
本当は、1番欲しかった。毎回毎回、この瓶が欲しいと思った。けれど、それは君への告白のようで、言えなかった。
「ねぇ、今日はどれにする?」
大きな、ボストンバックからたくさんの瓶が今日も出てきた。
見たことのある瓶ない瓶、たくさんテーブルに並ぶ。
「この前のはどうだった?最近暑いから、この氷色のはどうかな」
僕は、クローゼットに視線を向ける。それから、月色の瓶を探そうと思ったのだけれど、やめた。
俗に言う、魂の抜けたような顔をしていたであろう日だった、僕は君に初めて会った。帰路だった。月が綺麗な形をしていた夜、僕は大切なものを失った日で、その月に憎さも美しさも感じず、いつもの道を機械になったような気分で歩いていた。そんな僕に、君は声をかけてきた。真っ赤な、真紅の薔薇のような、白シャツに染みる血痕のような、真っ赤な液体の入った瓶を僕に差し出しながら。
あの瓶は、まだ僕の部屋にある。スマホを使うたびにその瓶を見て、君を思う。これど、あの日以降、君のボストンバックからあの瓶は出てこない。
「透明、かな」
君の瞳を覗き込みたい気持ちを握りしめ、ボストンバックの中身が変わる日を夢見ながら僕は答えた。
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