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プロローグ
「課長、ほんとにこの木切ってもいいんですか?」
安全第一と書かれたヘルメットをかぶった若い男が隣にいる中年男性に声を掛ける。
「仕方ねぇだろ、仕事なんだから」
二人の目の前には大きな大きな一本の木がどっしりと生えている。
樹齢でいえば何百年も経っているであろう立派な杉の木だ。
「でもなぁ、注連縄なんかもされてるし、ここらの大事なご神木じゃないんですか?」
若い男はまだ乗り気にならないような口調でそう話す。
「ご神木だろうがなんだろうが、おれらはここを更地にして引き渡すのが仕事だろ。再開発のでっけぇ案件だ。どんだけ金貰ってるかお前も知ってるだろ? 信仰で飯は食えねえよ」
課長の言葉に、若い男は「ハァ」とひとつため息を吐いた。
「祟りがあっても知れませんからね」
そう言って男は伐採の道具を取りに行く。
(――おろかな奴らよ)
誰にも届かないその声の持ち主は、ほくそ笑むようにその時を待っていた。
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