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「おまえ、進路はどうするのだ」
担任の小池先生に、そう尋ねられたのは、高校2年のある日の放課後だった。
小池先生は化学の教師だったが、専門は薬学だと聞いていた。
「俺の進路ですか?」
「当たり前だ。おまえに聞いているんじゃないか」
小池先生は、目を三角にして少し俺を睨んだ。
「先生、本当は薬剤師になるつもりだったのに化学の教師になったんですよね?」
「違う。僕は薬剤師なんていう、つまらない職業に就く気はなかった。薬学の研究者になりたかったのだ」
「では、生活のために、その夢をあきらめたんですか?」
「おまえ、本当に生意気だな。僕は夢をあきらめてはいない」
「えっ?!じゃ、今も薬の研究を続けているのですか?」
「そうだ。化学実験を続けながら研究を続けるために、高校教師になったのだ」
「実験を続けたいなら製薬会社や研究施設に就職した方が良かったんじゃないんですか?」
「おまえに何がわかる。僕の研究は、そんじょそこらの凡人には理解されないのだ」
「へぇ〜。面白そうですね。いったい、どんな薬を研究しているんですか?」
「ふふふふっ 知りたいかね?」
小池先生は、妙な微笑みを浮かべて俺の目を覗き込んだ。
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