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「おや、ここはどこですか?」
俺は、眠りから覚めたような気がした。
小池先生が、目の前で微笑みながら尋ねた。
「気分はどうだね?」
「何だか、長い旅をして来たような不思議な心持ちがします」
「さっきまでのおまえの写真を隠し撮りしておいた。見たいかね?」
小池先生はズボンのポケットからスマホを取り出して、俺に見せた。
「ほら、おまえは、こんな毛むくじゃらの芥川龍之介になっていたんだ」
俺は信じなかった。
「あははは。どうせ合成写真でしょ。でも、何となく口の中がタバコ臭いな」
「信じるも信じないも、おまえの自由さ。だが、おまえは芥川龍之介に変身するとタバコを吸いまくるから、もう二度と、このおくすりを使わせることはしない。ある意味、非常に有益な治験のデータとなった。ご協力頂き、ありがとう。さあ、家まで送って行こう」
「いえ。自分で歩いて帰れます。俺、何となく、自分の力を試してみたくなりました。俺の進路ですが、とりあえず芥川龍之介を目標に、東京大学を目指します」
「あははは。凄いな。目指すのは自由だ。案外、おまえならおくすりなしで、夢を実現できるかもしれんぞ。頑張れよ」
「はい! お邪魔しました。ありがとうございました」
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