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不審者な魔女
「知里ちゃん! しし座の運勢、1位だよ! いいなあ、おとめ座10位なのに……」
「うらないなんてアテにならないよー。気にしちゃダメ」
「気になるよ~。だって、こんなに細かく運勢書いてあるんだよ」
後ろの席の芦原歴(あしはられき)はうらない好き。
今日も、すべての授業が終わり先生が職員室から戻ってくる前に、タブレットでうらないサイトを見てる。
「ほら、見てよ」
タブレットを見せてくる。
歴はメガネをかけた小柄な女の子。見た目通りに頭がよく、勉強はクラス1位。
「思い切った行動が成功への近道。ラッキーナンバーは7、ラッキーアイテムはクリスタルだって」
いっぽう、あたしはそんなにうらないに興味がない。
「クリスタル? 透明で宝石みたいなやつだっけ?」
「クリスタルは水晶だね。いろんな形があるけど、丸いクリスタルなら、まさにうらないのアイテムかも!」
ボールのような形をしたものはテレビなどで見たことある。フードをかぶった占い師がその上で手を動かしたり、なでたりしている。
「そんなの持ってないって」
うらないはやらないけど、そのクリスタルはちょっとほしい。
「歴のラッキーアイテムは?」
「リボン!」
「あー、だから今日つけてるんだ」
歴はいつもシンプルなお下げだけど、小さいピンクのリボンがついていた。
「あたしは持ってないから、今日はアンラッキーかもねー」
そのとき、担任の多田先生が教室のドアをがらっと開けて入ってきた。
歴は反射的にタブレットをさっと机の引き出しにしまう。
「帰りの会を始めるぞー!」
教室中に響き渡る元気のよい声で、多田先生が言う。
上下をジャージに身を包んだ男の先生。30歳ぐらいって話。何事にも熱心に取り込んでくれるから、みんなに人気がある。
立ち歩いてたり、騒いでたりした人たちは、ささっと自分の席に戻って、すんと静かになった。
「最近、学校の近くで不審者が目撃されている。サギや誘拐などの事件に巻き込まれるかもしれないから、絶対に近づかないようにな!」
多田先生の言葉にクラスのみんなはざわつく。
「せんせー、それってどんなふうに不審者なんですか?」
男子が手を上げて質問する。
「若い男性なんだが、ツバの広い帽子をかぶっていて、顔がよく見えないらしい」
「ツバってなんですか?」
「帽子のまわりにあるひさし部分だな。やたら大きな帽子がいかにも怪しいようなので、見かけても近寄らないように!」
それを聞いてみんなは、どんな人なんだろうとそれぞれ予想を言い合ってる。
おしゃべり大好きな歴も話さずにはいられなかったようで、身を乗り出し顔を近づけてくる。
「知里ちゃん、そんな人見たことある?」
首を少し横にひねって答える。
「ないと思うけど」
「私もないや。どのぐらい帽子大きいんだろ~?」
「そりゃ頭がすっぽり隠れるぐらいじゃない?」
「魔法使いがかぶる帽子みたいな?」
「魔法使い? なにそれ気になる! ……あとで調べにいこっか」
「えっ!? ダメだよ」
「なんで? 気になるじゃん」
「ダメダメ! 話聞いてなかったの!? 見つけても近寄らないようにって、先生言ってたじゃない!!」
魔法使いっぽい帽子と言われたらすごく気になる。
本当に面白そうだと思ったからそんなことを言ってみたんだけど、歴はまじめなので先生の言うことを守ろうとする。
「そうだぞ、芦原! 怪しい人を見かけても絶対に話しかけたりするなよ!」
いつの間にか雑談タイムは終わり、クラスは静かになっていたので、先生は歴の絶叫をしっかりと聞いていたみたいだ。
これにクラスのみんなは大爆笑。
歴の顔はトマトみたいに真っ赤になって、今にも顔から火を出しそうだった。
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