退屈は植物を殺す

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 ︎︎今までなぜ多くの専門家達がツタを降りたのか、その意味がようやく分かった気がした。私はツタから葉っぱをひったくる。 「……これを飲んだら、私の薬も飲むと約束して下さい」  ︎︎どうして? ︎︎といいたげにツタは首をかしげる。 「人が人を口にするのは、本来とてもいけないことだから。対価を求めることは当然ですよ……」 「そうやって都合のいい時だけボクを人として扱う……」 「ツタは都合がいい時だけ自身を植物族として扱っているでしょう」  ︎︎ツタはムッとした表情で黙ってしまった。  ︎︎案内係からはしておくよう要請があったため、葉をすり潰す道具もそろっていた。  ︎︎そのまま食べるより、薬になるということが何を意味するのか分からせた方がいい気がした。  ︎︎ツタから受け取った葉を乳鉢に入れ、何度も何度も潰す。幸いなことに、これは葉そのものだったため、すり潰す際に一番危惧していた肉片が混じっていることは避けられた。 「人間は本当に都合がいい生き物です……他の種族と触れるほど、その事実を叩きつけられる」  ︎︎さらに何度も何度もこねるようにすり潰す。 「だが都合よく生きなければ、きっと我々は絶滅していたでしょう。我々は弱い。貴方も、きっと弱い」  ︎︎ すり終わり、乳棒についた草を端の方で落とす。ツタは延々とその作業を見つめていた。 「すり潰されているところを見て、貴方は何を思いましたか?」 「……悪くないかな」  ︎︎もうこんな意地の悪いことはしてはいけないという警告の意味を込めてすり潰していたのだが、まさか受け入れられるとは。ただの強がりだろうか。  ︎︎つぶされた葉はドロっとしていた。紙の上に乗せるわけにもいかない。 「皿をお借りしても?」 「……好きにしなよ」  ︎︎ツタの食事に使わているであろう皿の中で、予備の皿にのせた。周りの植物の気配を感じながら皿を持ち上げる。  ︎︎目を閉じて、鼻の近くにもっていく。青くさい、よくある葉の香り。私は緑色のそれをグイッと飲み込んだ。口の中に命の味が広がっていく。とある漢方の原材料をそのまま飲んで吐き出したことがあったが、それよりは口になじんだ。
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