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「ごちそうさまでした」
︎︎飲み終わりほっと一息つくとツタを見る。人を試すような表情が消えていた。
「……万病に効きそうかい」
︎︎口調は相変わらずだが、純粋な興味で聞いていることが受け取れる。私は机の上に皿をおいた。
「効能なんてそうそう出るものじゃないです。効き目がでるのに下手をすれば数週間かかることだってあるぐらいですから」
︎︎毒は即効性のものが多い。逆にいえば即効き目がでる薬は毒になる可能性も十分秘めているということだ。
「ねえ、人を食べたら病気になるといっていたね。一体どうなるんだい」
「プリオンという体内のタンパク質が異常変化を起こし、その異常プリオンが脳に蓄積され……最後は死に至ります」
︎︎ツタはさっと右手で頭を抑える。
「ちなみに根本的な治療方法はいまだに解明されていません……一度異常プリオンになれば正常に戻ることはできません。治す薬も、施術もない……」
︎︎ツタのただでさえ白い顔がさらにサァッと青ざめる。
「ツタには脳があるのですね」
「……当然だろ!」
「植物であれば脳はありません。彼らは根をはれば食事が回ってくる生活をしているので、脳がいらないのです」
︎︎ツタは何が言いたいのか分からないといった顔をする。
「あなたが満たされないのは当然のことでしょう。人間の部分をもっておきながらなんの苦労もなく生きていくというのは、一見すると素晴らしいことのように思えますが実際はとてもとても難しいことです。仕事や勉強のような負荷がなくては、人は自分を保てない」
︎︎ツタの一部が入っていた皿のふちを人差し指でなぞった。
「そして満たされないと今のように人を試さないと気がすまないようになるんですよ、ツタ」
︎︎ツタは今度は顔を赤め叱られた子どものような顔をした。今の一連の流れで私に怒られたのだと読み溶けたのなら及第点だ。
「……それを知っていて食べたのかい」
「強い薬には強いリスクがありますから。ツタに信用されるためなら、これぐらいは……というのは建前で実際は万病の薬というものを試してみたかったんです」
︎︎ツタはぷッと笑いまた表情が暗くなった。
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