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︎︎ツタと別れ私は真っ先に案内人の元へ向かった。会うのに薬を渡すという口実は必要なかったらしい。盗み聞きしていたのか彼は全ての事情を知っていた。
「万病の薬が本当にあると分かれば、彼が辿る末路が見える。我々は動くことができない彼を守りたい」
「……貴方達が彼を利用しているんじゃないんですか」
︎︎本当に守りたいのならツタともっと会話をするべきではないか。
「……散髪のついでに出た葉は、事実として我々上位の死神の中で使われている。あくまで健康食品程度のものだがね」
︎︎やはりか。と思い息を吸う。
「ツタはそのことを知っているんですか」
「教えていない」
︎︎案内人は悪びれもなく言い放った。あれはただ試したいだけで本気で薬になると思っていなかったのか。
「……混血すべてを救おうとすればどこかで齟齬が生じる。我々死神は不眠不休で働く必要があるんだよ」
︎︎実際ツタの葉を飲んだ時に多くの症状が和らぎ今は体調がすこぶるいい。死神達に薬を提供しなくていい理由がようやく分かった。
「麻宮……君を選んだのは混血に詳しい薬師だからではなく、プライドが高く口が堅い男だと知っているからだ」
︎︎患者の情報はたとえ何があっても漏らしてはいけない。そのため私は自分の実績を晒したりはしていない。それが逆に評価されていたとは。
「ツタにとってこの環境は薬だ」
「強い薬は副作用も持つでしょう。そしてこの環境の副作用が出ないようにする薬が……」
「そう、麻宮貴之……君だ」
︎︎副作用ばかり怖がって本来の薬の目的を見失ってはいけない。自分の言葉を思い出す。
︎︎確かにここなら生きることに退屈したとしても無惨な末路を迎えることはないだろう。
︎︎しかし退屈は時に人を絶望させる。この状況を見過ごす気にはなれなかった。
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