退屈は植物を殺す

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 ︎︎当然の話だが、植物園には植物しかない。上を見ても下を見ても青々としげる植物たちがいた。しかし私の目の前にある植木鉢の中にいる生き物は、異質だった。顔や全体的な体つきは私と同じ人間だが髪の代わりに葉がおいしげり左腕は枝でできている。植木鉢の中でおそらく根をはっているのだろう。 「以前も説明したと思うが、彼は植物族と人間の混血なんだ」  ︎︎案内係は当然のように私に説明を続ける。植物族と人間の混血。今の時代、混血も珍しくはない。吸血鬼と人間、人魚とサキュバス、エルフと単眼族……様々な種族が入り交じり私のような純人間の方が珍しいぐらいだ。 「植物は根をはりそこから栄養素を供給される。人間は自ら動き食事を行う。その両方が不可能な存在なんだ」  ︎︎ちらりと彼の方を見ると不服そうな顔をしていた。 「……これは旧歴における亜人種との無差別交流がもたらした例だ」  ︎︎苦虫を噛み潰したような顔で案内係は私の手を取った。旧暦──まだまだ他の種族と交配する時の法や医療がまったく発展していなかったほんの数十年前の話だ。 「頼む。彼に、薬を見繕ってやってくれ」  ︎︎私に答えは一つしか許されていない。 「仰せのままに」  ︎︎案内係は安心したように私の手を離し、いくつかの資料をおいてその場を去る。案内係が植物の影に隠れるまで見届けてから、件の彼に向き直った。私と案内係のやり取りを見ている最中からずっと彼はうつむいていた。資料によると話せるようだが、このままでは埒が明かないと思い口を開こうとするとなんと彼から話かけてくる。
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