9/14
82人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
 だけど笑ったその横顔に、なんだか見覚えがある気がする。転校してくるずーっと昔から知っているような。  うーん、誰だったかなァ……?  伊奈利をこっそり盗み見ていると、伊奈利が視線に気が付いてわたしを見た。  ニイッと笑うと、くちびるが横に広がっていく。伊奈利は片手をグーにして、顔の横でクイッと曲げ、「コンッ」とひと声鳴いた。 「あっ、お稲荷(いなり)様っ?!」  わたしは思わず立ち上がって、叫んだ。クラスのみんなが振り返ってしまった。伊奈利はというと、原因を作った張本人なのに、すましている。 「おー、水瀬色葉さん、やる気まんまんですねー。せっかく立ってくれたので、次の問題をお願いしまーす」  高橋先生ののんきな声に、みんながどっと笑った。 「はい……」  わたしは仕方なく黒板に向かった。なんとか回答を書きおえて席にもどると、わたしは隣の席の伊奈利にそっと言った。 「お稲荷様、なんでこんなところにいるんですか?」 「オレ、お稲荷さまじゃないよ。鳥居のところに居るキツネ。だけどただのキツネじゃないぜ。神さまの眷族(けんぞく)、お使いなんだ」 「へええー」
/112ページ

最初のコメントを投稿しよう!