02.戦いの始まり

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02.戦いの始まり

●  整備された大きな道路を小型オートモバイルを乗って走る人物がいた。小型オートモバイルとは特殊なエンジンで駆動し、長距離を移動する乗り物である。大型に比べると、小型は一人か二人しか乗れないのだが、スリムさと風を肌で感じる全体的な作りが便利だ。  白銀の長い髪を風に靡かせ、オートモバイルに跨がった青年はどこかの路をオートモバイルで走りながら、遠い過去の記憶を思い出す。  燃え盛る炎、崩れていく壁。転がる死体。その中で、少女を横抱きにし立っている青年の姿。  冷たい眼差しでこちらを見ていた。 「…………」  まだ、脳裏に焼きついている。鮮明に思い出せるのだ。  対峙し、敗北し、大切な者を奪われて行った。  頭にこびりついて離れない、男が放った言葉。 『彼女を取り戻したいか……? 俺達が憎いか……? ──ならば、俺を殺しに来ればいい』  男は静かに、落ち着いた声音でそう言った。  その言葉が今も、呪いのように自分を過去へ縛りつけている。 「…………」  あの男を殺し、大切な少女を取り戻す。その為に今まで生きてきた。けれど、男も少女の行方も細い糸のように情報が掴めない。  二人の行方を捜し、各地を放浪しているが掴めない。きっと、定住せずにあちらこちらを放浪しているのだろう。 「…………アルバ」  あの日、連れ去られた、大切な少女の名前を口にする。一緒に暮らし、彼女の……、アルバの暖かな笑顔を思い浮かべる。  アルバの笑顔を守りたかった。  けれど、アルバは男に連れ去られ、行方は長いこと分からず。  当てのない旅路、だが、必ずアルバとあの男を捜し出す。  ●  ────西大陸、小国シュッツェ観光区ラトから移動魔法で飛んできた一行は観光区エト、その街中へと到着した。この街は世間の常識から見れば、ダークゾーン。法的に見れば、グレーゾーンであろう。  治安はお世辞にも良いとは言えない場所だ。無法者や裏で生きている人間がそこかしこで歩いている。  予め、リドルが人気のない場所を座標に設定してくれたおかげで移動魔法で飛んできても騒ぎにはならなかった。  アリス達が到着した場所は外である。地面を見れば、ゴミが散乱し、周囲は亀裂が入った廃墟のような建造物が建ち並んでいる。空気は淀んでおり、一般観光客は近づかない街であろう。 「…………す、すごいところだね……」  アシェロが困ったような表情を浮かべ、小さく声に出した。  小国シュッツェの闇の部分であろう。この街には清掃という概念が存在していないのではないかと思うほど。 「…………死体が転がっていても違和感はないな」  アリスが呟く。  それを聞いたアシェロは「ひゃー」と小さな悲鳴を上げた。 「物騒なところね……。気をつけて任務に当たらなくては……」  ティアは周囲を見回す。建築物は老朽化が進んでも取り壊しや、補修がされていないのだろう。観光区、と言われてはいるがとても観光できるような街ではない。小国シュッツェがどのような国か、この街を見れば分かる。 「国の財の収入の何割かが稀少種の闇取引とも聞く国だ。稀少種保護条約にも加盟していない」  アリスの説明に、アリステアに抱えられたトゥワが悲しそうな表情を浮かべる。  昔から稀少種と呼ばれる一部種族は高額な金銭で取り引きされ、沢山の悲劇を生んで来た。彼らの犠牲に国が成り立っていたことなど、闇は深く、それは現代まで続いている。  …………力のある保護団体が出来たのは昔よりもマシな境遇ではあるのだろうけど。  アリスは昔の彼らを思い出す。犠牲を強いられ、人権など昔の彼らには許されなかった。  北大陸の名家エルヴァンスの現当主を筆頭に、権力のある者が保護団体を設立したことで表立って彼らを救うことが出来るようになったのだ。 「……こわいよぉ、アリステア……」  街の中の不穏な空気を感じ取り、トゥワはアリステアの腕にしがみつく。  ピリピリと、細く鋭い針を刺されるような殺気を肌に感じる。こちらに気づき向けられた敵意の視線が複数。  アリス達も感じてはいるが、相手の出方を窺う。 「────アリス」 「……アリステア、いつも通りに」 「…………うん。トゥワはボクが守るよ」  トゥワを抱えているアリステアはしっかりと頷く。トゥワは長い耳を動かし、不安そうな眼差しをアリスに向ける。アリスは落ち着いており、相手の気配を探っている。  アシェロ達も周囲を警戒する。  突然、現れた異物のような自分達が快く歓迎されるなど、微塵も考えていない。手荒い歓迎はされるのだろうが……。  …………数は複数。  気配を隠しきれていない者がちらほらいるが、中には気配を押し殺し、遠くから攻撃をしかけてくる者もいるだろう。  数分間の膠着。  風が吹いた。そして、相手が動く。  物陰から飛び出す者が十数人。遠距離から僅かな音が耳に入った。  迫る複数の敵。だが、どれも連携が取れていないらしく動きが違う。  アリスは瞬時に短銃を手にする。視界に入った敵と、気配で感知した敵に向かって速射で六発。アリスの短銃から発砲された弾は狙った敵の身体に撃ち込まれた。襲いかかろうと迫ってきた六人は弾の威力と衝撃に吹き飛ばされる。 「ぐあぁっ!」 「ぐう!」  様々な声を上げ、地面に倒れる者もいれば、建物に突っ込む者もいた。通常の弾であれば殺傷能力があるが、アリスの使っている弾はアリスの魔力が込められており、衝撃を食らう程度に威力を抑えている。  正確な速射によって先ずは六人。それはほぼ一瞬の出来事である。  それを横目にしたとしても、敵は足を止めるわけにはいかない。突如現れた異物たるアリス達の排除が最優先である。  自分達の方へ向かってくる敵を視界に入れても、アリスは冷静さを崩さず、的確な対処をする。  片手に握った短銃の銃口を、迫る敵に向け、アリスは引き金を躊躇いもなく引いた。  アリスの近くに立っているアシェロも銃を手にし、遠距離にいた敵の攻撃を相殺し、敵を複数撃ち抜いた。  地面に這いつくばる者、苦痛に耐えながらも蹲る者、反応は様々である。  苦痛に顔を歪ませた敵がアリス達に言う。 「…………お前ら、観光客じゃ……ねえだろ……どこのモンだ」  敵の質問、アリスは馬鹿正直に答えてやる気は無かった。 「────さあ? 身に覚えがあるんじゃないか?」  アリスは言うと、敵に向かって銃を撃った。  魔力式の武器であるため、発砲音も小さく、殺傷力もアリスの技術でコントロール出来る。  暫くは身体を動かすのも辛いだろうが、敵に情けをかける気はない。命を奪わない、それだけの慈悲でしかない。 「チンピラ程度みたいだね」  地面に転がる、敵の身体を足先でつんつんと突っつきながら、ルディは言った。連携もできない、気配も殺しきれない。素人に毛が生えた、脅し用の駒という役割だろう。  ルディはティアの腕に自分の腕を絡め、ニコッと愛らしい笑顔を浮かべる。ティアも柔らかな微笑みをルディに向けた。 「連携も粗末だし、雇われたプロの集団ではなかったわね……。観光客への脅し用かしら?」  地面に転がっている連中はゴロつきの類であろうと、ティアも思っていた。考えたくはないが、この治安の悪さを見ると、治安保持は働いておらず、観光客の誘拐などもやっていそうではある。  ……早く、助けてあげたいわね。  ティアは複雑な心中に、この任務をやり遂げたいという思いがあった。誘拐された稀少種族がどういう道を辿らされるのか、ティアは知っている。  この手が届く限りは助け出してやりたい。 「…………オークション会場は分かるの? アリス」  アシェロがアリスに小声で問う。 「団体から保護対象の魔力波サンプルを借りている。──辿れば、会場が分かるようにシステムに組み込んでもらった」 「最近は便利な方法があるのねえ……」 「昔に比べれば、魔力消費を抑えられるな」  現代、稀少種族保護団体という組織には厳重な管理のもとに稀少種族の魔力波を保管している。それはこういう時に役に立つのだ。大っぴらには個人の魔力に差などないように見えるのだが、実際は違う。魔法使いとして、それなりの年季があるものには個人の魔力の気配は各々、違って見え、感じるのだ。微細で、魔法の才能がなければ判別は難しいのだが……。  その辺、アリスは魔法使いとしても気が遠くなるほどの年月を過ごしている。借りた魔力波の数値や気配で保護、救出対象の居場所を探れるのだ。  アリスは画面を起動し、慣れた手つきで操作をし始める。 「保護対象の他にも捕まっている子とかいたら、団体に保護してもらう……だっけ?」  アシェロは首を傾げ、これまでの経験を思い出し、対応を口に出す。アシェロの背中に貼り付いているクーがアリスの代わりに答える。 「身元さえ判明してしまえば、家族のもとに帰してやれる。……現代では基本的に新生児は戸籍を取得するのが義務だからな。よっぽどの事情が無ければ、団体が身元照合してくれる」  クーの説明を聞き、アシェロは「便利になったよねえ」としみじみとした表情を浮かべながら、呟く。  個人では出来ないことも団体という組織化のおかげで、出来ることも増えた。これまでの積み重ねにより、社会からの信頼も得られた保護団体は、今や稀少種族に関して社会への発言権も持っている。  …………世界は少しずつ、変わっているのかな?  アシェロは空を見上げる。昔を思えば、少し、少しと世界の価値観が変わりつつあるような気がする。  それが世界として良いことなのか、悪いことなのかは、きっと滅ぶまでは分からないだろう。  アシェロは顔を正面に向け、近くに立っているティアへ視線をやった。 「──チア、大丈夫かな?」  観光区ラトで出会った不思議な青年メア。そのメアはアリス達との同行を頼んできた。困ったアシェロ達だが、アリスはメアをチアに任せて煙に巻いたようなものだった。  チアは不服そうであり、頬を膨らませていたが、アリスは知らん顔して置いてきたのだ。  チアを心配するアシェロの言葉を聞き、ティアは苦笑をした。 「どうかなあ〜。納得してなさそうだったし、今も怒ってるんじゃないかな……」  ティアの予想にアシェロは「だよね〜」と、頷く。  二人の会話を聞いていたルディとクロウは揃ってアリスの方に視線をやる。視線を感じたアリスは画面に顔を向けたまま、さらりと言った。 「…………俺はチアを信頼しているからな」  それはそうなのだろうけれど、と皆が思ったが、同時に「物は言いよう……」と口を揃えて呟く。  長い年月を共に旅をしてきた。アリスは確かに、チアへ信頼を感じている。だが、信頼とは別にチアの性格もよく分かっているつもりだ。  感情的になりやすいチアが、あの青年に上手く誤魔化せるかどうかまではアリスにも読めない部分がある。 「…………」  メア、と名乗った不思議な雰囲気の青年を、アリスは思い出す。  …………。  偶然か、必然か。運命に偶然はないのだと知ってはいるが、メアは何故、自分達を選んだのか。渡航管理局には沢山の旅人がいる。けれど、メアはアリス達を選び、同行をしたいと希望してきた。  メアのことを押しつけたのだが、チアがどういう行動に出るか、アリスは予想がついている。  …………チアはうっかりなところあるからな。  ●  アリス達は街中を歩く。出来れば静かに、速やかに目標地点に到着したいのだが、そうもいかない。  寂れたような街。観光区とは名ばかりだ。街に根深く、隠しきれていない怨嗟の気。  この街がやってきた結果と考えれば当然だろう。 「……アリス……」  アリステアに抱えられているトゥワが小さな声でアリスの名前を呼ぶ。この街に根づく、恐ろしい気配をトゥワも気づいたのだろう。 「トゥワは敏感だね~」  アリステアがのほほんとした口調で言う。トゥワはしょんぼりと浮かない表情を浮かべた。  トゥワの表情に視線をやったティアは眉を下げ、トゥワを心配し、声をかけた。 「…………大丈夫? トゥワ」 「…………んみゅ~、ありがとう、ティア。 …………ずっと、下の底から……黒くて、哀しくて、……心が苦しい、肌を通して……寒気みたいな……」 「トゥワ……」  ティアは、辛そうなトゥワに同情を感じた。トゥワは優しい心を持っている。その優しさがこの街に根づく遺恨を感じとって、共感してしまう。  そんなトゥワを抱えたアリステアは首を横に傾けた。 「トゥワ、あまり辛いなら元の姿に戻っても良いんだよ。その方が、感覚もコントロールしやすいだろうし……」 「…………うみゅ」 「ね、アリス」  アリステアは同意を求め、アリスに声をかける。アリスは「好きにしろ」と、小さく頷く。  だが、とアリスはアリステアに言う。 「アリステア、分かっていると思うが、護衛は頼むぞ」 「……うん! 任せて!」  アリステアはにっこりと笑顔を浮かべた。  アリスの承諾を受け、アリステアの腕の中にいるトゥワは元の姿に戻ろうと、身体から光を放つ。トゥワの小さな身体が光に包まれ、トゥワぼ身体が大きくなっていく。人の曲線へとトゥワは変化し、身体を包んでいた光は弾けて消える。  アリステアの腕の中にいた小さなトゥワはあっという間に人の姿に変身した。  その姿はアリーシェによく似ている。  ピンク色の、長い髪は太ももまである。大きく、綺麗な金色の瞳に可憐な顔立ち。アリーシェよりも幼さが際立つ。  先ほどまでトゥワと呼ばれていた女性はアリステアに向かい、微笑む。 「アリーシャ」  アリステアが名前を呼ぶとアリーシャは頷く。  トゥワ……、もといアリーシャ。彼女はアリステアに抱えられた状態でアリスへと視線を向ける。  視線に気づいたアリスはアリーシャの方へ顔を向けた。 「アリーシャ、アリステアから離れないように」 「…………うん」  アリスに言われ、アリーシャは頷く。  ……まだ、子供扱いされてる気がする。  アリーシャはそう思い、少しだけ不満だった。アリスから見たら、確かにアリーシャはまだ未熟な子供に見えているのかも知れない。外見が成人に見えていても、中身は幼さが残っているのはリーシャも自覚している。  でも、たまには頼りにされたい。ティアや、アシェロ、アリステアのように。  そんな気持ちがアリーシャにはあった。 「アリーシャ」  アリスに名前を呼ばれる。 「……? なあに? アリス」 「保護対象のケアはアリーシャ主体に任せる。 アリステア、いけるな?」 「……! アリス……!」  意外なアリスの言葉にアリーシャは身体全体で喜びを表現したくなった。  アリーシャを抱えているアリステアは苦笑を浮かべ、アリスに返事をした。 「わかった。アリーシャの護衛と、保護対象のケア、任せて」  アリスは柔らかい微笑みを、アリーシャとアリステアに向けた。その後、いつもの真剣な表情に戻り、ティア達の方へ向く。 「俺達は敵の排除、後方はアリーシャを主体にやる。後方のサポートはリドルとクロウに任せていいな」 「うん、僕もリドルも大丈夫だよ!」  クロウが元気よく答える。魔法使いは後方でサポートしてもらい、アリスが斬り込みをする。  いつもの、慣れた連携だ。  ●  街中を歩いて進む。保護対象の反応は問題なく追えている。  だが、自分達、異物を放っておくわけにはいかないであろう。 「旅行客、待ってもらおうか」  低く、静かな声がアリス達に向かって制止を求めてきた。  気配を寸前まで圧し殺し、足音を限界まで消した男がアリス達の前に現れる。  アリスは男が現れても、特に表情を崩さず、金色の目で男の姿を見据える。 「…………」  連中の雇った、始末に慣れている者だろう。アリスは隠そうとしても隠しきれていない、男から漏れている殺気に、小さく息を吐く。  男の目を見る。他者の命に興味のなさそうな目である。  …………慣れている。ただ、それだけだろう。  アリスは一歩、足を踏み出す。  瞬間、空を切る音がした。 「…………ほう、」  男が関心の息を吐く。警告と、負傷をさせるつもりで剣を振るったが、アリスに見切られ、避けられる。  アリスの回避に男は愉快そうに口角を吊り上げ、アリスをただの旅行客ではないと見定める。 「…………」  アリスは喋らない。こういう時にべらべら喋る性格ではないのだ。  男の眼差し、愉快そうな笑み、アリスはただ冷静に観察する。  余裕があるのは男がアリスを舐めているからだろう。外見からすると、アリスはよく舐められる。 「…………何が目的かは分からぬ、が。 ……おおよその見当はつく。お引き取りは願えそうにないと見えるな」  男は積極的にアリスに話しかけるが、アリスは答えない。  アリスから情報は得られない、と判断した男は足を踏み込んだ。男は片手に握った剣の柄を軽々と振るう。  剣の切っ先と、剣圧がアリスの首を切断すべく襲う。  しかし、アリスは銃を撃ち、剣圧を相殺し、切っ先を銃口で止めた。 「はっ────」  男は驚愕の表情を浮かべた。  アリスは無言で銃の引き金を引く。  衝撃が男とアリスの間で弾けた。  自分の剣撃を全て押さえられ、男は想定外だとアリスに視線を向ける。  だからといってアリスは男に猶予を与えてやる気は毛頭とない。男に銃口を向け、連続で弾を撃つ。  何時から武器を持っていた、など男の頭に疑問が支配する。疑問を解消する間もなく、アリスの撃った弾が男に向かう。  男は剣圧で全てを防ごうと腕に力を込める。  力と力のぶつかり合いによって起きる、大きな衝撃が辺りに広がった。 「…………な、何だ」  男は信じられないものを体験した気分だった。  物理による攻撃、魔法使いによる魔力、それは確かにこの世界の戦闘における主軸といってもいい。  しかし、魔力を武器へ応用することなど、若い者や未熟な者は知らないだろう。  …………教えてやる気もないが。  アリスは冷めた眼差しを男に向ける。  男はアリスの未知の技術に、眉を寄せた。だからといって退くわけにはいかない。戦いを止める理由にはならないのだ。  剣を握る男に、アリスは言葉を放つ。 「…………退く気がない。ということは、覚悟は決まっているようだな」  アリスが手にしている短銃の銃口は男へ向いている。  武器を捨てない、戦う意志を持つということ。それは死をも覚悟しているということ。  戦いにおける覚悟もなく、この場にいるわけではなかろう。  アリスは無表情のまま、銃口の引き金を引く。  ●  ────路をオートモバイルに乗り走る、彼のもとに通信が入る。 『──ゼロ、今どこにいる?』  耳に付けた小型通信機から音声のみ、拾い上げ、聞こえてくる男性の声。  ゼロ、と呼ばれ、それが当然であった。自分に与えられた名前がゼロだったからだ。  よく知っている通信相手から、居場所を訊かれたゼロは答える。 「西大陸の、小国シュッツェに入った。観光区ラトで少し、情報収集をするつもりだ」  通信相手は『そうか』と短く、返事をした。 『…………本当に生きているのか? 滅んだ種族なのだろう?』  通信相手の疑問にゼロは間髪入れずに答えた。 「生きている。 ──あの男は今もどこかで生きている」  根拠のない確信だ。  それでも、とゼロはオートモバイルを駆り、路を走る。
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