よくなる薬

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「あまり揉め事はおこさないでもらえますか?」  半開きだった診察室のドアを開け、私は男にむかって言った。 「申し訳ない」  台詞とは裏腹にまったく意に介していない顔だ。 「それで、順調ですか?」  男を診察室に通すと、 「順調もなにも、私は粛々と診察するだけです」  机の引き出しを開け、パウチの袋の中からラムネを数粒掴み、口に含んだ。この男と話すのは疲れる。糖分でも補給しないとやっていられない。 「相変わらず無愛想ですねぇ。先生は賛同してくださったのでしょう?なら私たちは同志だ。仲良くしましょうよ」  にやりと笑う男。やはりあまり好きにはなれない。 「どちらがこの土地にとって有益かを考えただけです。あなたの一派になるためではありません」 「まぁ、今はそれでよしとしましょう。で、川本さんはどうなんです?」 「佐藤さんよりは長引きそうですが、まぁ、時間の問題でしょう。さっきの診察と合わせて今月は三人ってところですかね」 「あそこが痛い、ここが痛いと言う割に、年寄りたちはしぶといですね。もっと早くくたばってくれたら...失敬、口が滑りました」 「確認のために来たのならもう用は済んだでしょう。疲れているので帰っていただけますか」 「いやね、先生の良心が揺らいで途中でやめてしまうんじゃないかと心配になりましてね。だがよかった。あなたの協力がないと困りますから。誰もがあなたを信じている。騙されているだなんて思いもしない」 「私は騙してはいませんし、嘘もついてはいません。診察をして、薬を渡しているだけですよ」  あぁ、やっぱりこの男との会話は疲れる。 「ただ、“何が“よくなる薬かを言っていないだけです」  そう言って私は食べていたパウチの袋をひっくり返し、次に渡す小瓶の中に白い粒をざらざらと詰め込んだ。 完
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