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鳥居
かがんで鳥居をくぐると辺りの景色は一変する。あなたの周りには見渡す限りの闇が広がり、振り返るとそこには街並みや道路どころか今しがた通った鳥居すら存在しなかった。
☆正気度喪失 0/1
森谷友己(もりや ともき) :
1D100<=74 正気度ロール (1D100<=74) > 81 > 失敗
SAN : 74 → 73
「展開が早いね、まったく……。」
唐突にここまで景色が一変するとは思いもよらず一瞬後悔が過る。
「いや。分かっててやったところがあるだろうに」
しっかりしろ、と言葉にはしないまでも胸に刻む。
服装に変化はないが所持品は手から消えている。眼鏡やアクセサリーなどの装飾品以外は、ポケットの中身も空になっていた。
しばらく見回していると、少し離れた場所に何かがあることに気がつく。近づいてみるとそれは木の立札であった。ずいぶん古いもののようで、掠れた筆跡で以下の文言が書かれている。
『その影を見るべからず
その声を聞くべからず
その問に答ふべからず』
森谷友己(もりや ともき) :
CCB<=95 母国語(日本語) (1D100<=95) > 81 > 成功
立札の文言が「見ざる、言わざる、聞かざる」いわゆる三猿(さんざる)を示していると分かる。本来は「不浄なものに触れるべきではない」という仏教の教えである。
「影」は「姿」の意味。
「日本においては、日光東照宮にあるレリーフが有名だから誰もがあれを思い浮かべるやつだね。実際はエジプトやカンボジアにもそれぞれの言語で同じ文言があるらしいから発祥自体はともかく、思想としては国境問わず広く知られているもの……つまり、不浄なモノには触れるべきではないと、思想自体が大きく違う人種であってもそう思うということだ。」
立札に書かれた掠れた筆跡を視線でゆっくりとなぞりながら浮かんだ思考を口にする。誰もいなければ何も持っていないこの状況を少しでも冷静に受け止めたい。自分を落ち着けるため、やたらと独り言を言っている自覚はあった。
「……誰に説明してるんだろうね。」
笑えもしないが。
ひとつ、声に出すことで強く意識に残るというのはある。
もう一度立札を見ると、書かれた文章が変わっていた。
『かえりたければこのさきへ』
☆正気度喪失 0/1
1D100<=73 正気度ロール (1D100<=73) > 51 > 成功
「……。」
いつの間に変わった?
開きかけた唇をそっと閉じる。
いや。言葉にしなくてもいいだろう。たぶん、その方がいい。
きっと、気づかなかっただけだ。
それに何も悪いことが書かれていたわけでもない。
帰り方が示されているなんてありがたいことだ。
見れば奥に洞窟がある。墨色の闇より濃いぬばたまが、いびつな半円形に口を開けていた。
それが本当に「帰り道」なのであればだが。
一歩踏み出す。
洞窟だが?
街中に洞窟があるはずがない。
だがもう自分のいる場所は今あの都会の街中ではないのだろう。
詳しく考えるのも控えたい。
行くしかないか?
多分そうだろうと、内心腰の引けている自分に重ねて事実を突きつける。
道はそこにしかないのは、見れば分かるだろう。
洞窟の入口に立つ。湿った生暖かい風がゆるりと吹き込んだり、吐き出されたりを繰り返している。それは大きな生き物の呼吸をするかのようだ。
内と外との境目に小さな石像がある。何の生き物だろうか、小さな両手で目を塞いでいるように見える。
「……湿気が強いな。夏とはいえ、洞窟って中からこんな生暖かい風が来るもの?」
色んな洞窟のことを知っているわけでもないから何とも言えないが、不審に思う。
それに、先ほどの立札にあった文言も気になるのだ。何か、よくないものがいるという暗示に見えなくもない。
猿ではないようだが、実際洞窟の前には目をふさいでいる生き物の石像があるようだ。周りに文字があるようには見えないが、恐らくはそうして進めと指示しているのではないだろうか。
「問題はこれに大人しく従っていいのかどうか分からないところなんだけど。普通の洞窟だったとしたら、目隠しで進むことが出来るのかっていうと足元も頭上も心配なことが多いな……。」
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