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洞窟
見える範囲では、洞窟の広さや構造まで分かるはずもない。
ため息をついてから、眼鏡をはずす。
「手荷物がないわりに、要らないものが残ってたな。」
どうせ伊達眼鏡だ。邪魔になるようなら破棄してしまってもよかった。ただ、謎の場所に私物を迷いなく不法投棄していくのも憚られる。とりあえずシャツの首元に引っ掛けることにした。
両手が目をふさぐために使えなくなるのも困るので、腕で目を隠しもう片方の手のひらを壁に添える。
全く前が見えない中で知らない場所を進むのは、想像以上に恐怖を感じる。
「……仕方ない。知らない場所では、とりあえず決まりに逆らわない方がいいだろうからね。」
だから、これ以上の怖いことは起こりませんように。
そう思いつつ、壁に触れた手と、靴越しに感じる地面の感覚に神経を集中させた。あまり時間をかけたくないが、そんなに速く進めそうにもない。
爪先すら見えない闇の中を感覚だけで進む。足元や触れる横壁はつるりとして、僅かに濡れているのか滑りやすい。
「こっちだよ」
唐突に少女の声が聞こえ、あなたの手に誰かが触れる。ぬくもりは無いが確かに人の手の形状だ。
握られた手の先に視線をやる。手には肘から先が無かった。引きちぎられたように前腕だけが浮かび、途切れた面からは血肉が滴るではなく無数の白い触手が蠢いている。
☆正気度喪失 1/1d3
森谷友己(もりや ともき) :
1D100<=73 正気度ロール (1D100<=73) > 6 > 成功
SAN : 73 → 72
≪アイディア≫または≪心理学(オープンでOK)≫
森谷友己(もりや ともき) :
CCB<=75 アイデア (1D100<=75) > 68 > 成功
声に敵意は感じられない。また無理やり手を引くようなこともない。邪な思惑はなく純粋に道案内を買って出ているようだ。
突然聞こえた声と、急に体に触れられたことで思わず見てしまった。
なるほど、直視しない方がいいのは間違いなさそうだ。
声と、手の形だけは人間のようだが、それ以外が間違いなく人ではない。
ただこの状況でも冷静でいられたことは自分を褒めようと思った。この声の主には悪意が無さそうだということが分かったのは大きい。
「……わかった。そっちね。」
誰かがいるかもしれない。それは分かっていたことだった。わざわざ注意を促して、石像を置いたりがなされているのだから。
「こっちだよ」「こっちだよ」
時折安心させるようにそう声を掛けながら、柔らかく手を引かれる。
踏みしめる地面がぬちゃりと音を立てて、靴裏に粘着質な何かがへばりつく感触がある。歩を進める度に、闇の中からこちらをジッと見ている気配を感じる。風の吹き込む隙間もないはずなのに、ジットリと湿度の高い空気が絶えず揺れ動いている。自分の足音と荒い息遣いだけが洞窟内にこだまする。
☆正気度喪失 0/1
森谷友己(もりや ともき) :
1D100<=72 正気度ロール (1D100<=72) > 79 > 失敗
SAN : 72 → 71
何かがいる。
足元に不自然な粘り気がある。
この場で全く必要のない想像力が働いてしまって鳥肌が立った。
この声の持ち主とは別な何かがいるのではないか。
そんな予感だ。
そうして導かれるままに真っ暗な洞窟を進む。途中いくつかの分かれ道があったが、白い手は迷いなく進んでいく。
不意に周囲の視認性がよくなる。緩やかな曲線を描く洞窟の先が、漆黒から薄墨色へ明度を上げている。どうやらこの洞の出口に辿り着いたようだ。
耳を澄ませば、前方から川の流れる音が聞こえてくることに気づくだろう。
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