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御簾
屋敷の中は明かりが無く、御簾の向こうはさらに暗い。女神様の姿どころか影を見ることさえ叶わなかった。
女性が胸の前で手を組み、御簾の奥へと呼びかける。
「全ての死を統べる黄泉の女神に、恐れ多くも申し上げます。
死者のみが入ることを許されたこの根(ね)の国に、生者のまま迷い込んでしまった者がおります。この者はまだ寿命を残しておりますれば、もう一度現世へ帰してやってはいただけませぬか。
境の岩戸を開き、黄泉がえりへの道を示してくださいますよう、恐れながらお願い申し上げます。」
女性の言葉ののち数拍置いて、返ってくる言葉がある。男のような女のような幼いようなしゃがれたような、形容しがたい声だ。空間中に響き渡るほどの大きな声から、建物の大きさに似つかわしくない自分の何倍もある巨体が鎮座していることだけがはっきりと認識できるだろう。
☆正気度喪失 0/1
森谷友己(もりや ともき) :
1D100<=70 正気度ロール (1D100<=70) > 9 > 成功
『お前は誰だ。名を名乗れ。』
意図して何も答えない、というのはなかなか気まずい。
言われた通り、返事は隣の女性に任せることにする。
隣に立つ女性が答える。
「数多いる民草のひとりにございます。あなた様に名乗るべき名を持ちません。」
帳の向こうの巨大な何かが、不満そうに鼻を鳴らすのが分かる。
『まあよいわ。では次ぞ。』
『生身で我が領地に立ち入るとはどのような了見か。』
来ようと思って来たわけでもないので何とも答えようがない。
そもそも何も口を開く気はないが。
伏し目がちになって遠くを見る。
せめて態度に出ないよう気を付けることにした。
「先だって申し上げた通り、この者は迷い込んだだけの異邦人でございます。あなた様のお心を乱す目的など露ほどもありますまい。」
女性の答えを聞いた声は、忌まわしげに言葉を続ける。
『生者は容易く偽りを申すものよ……あの方のように。次が終の問ぞ。』
『生者の国へ還りたいか。自らの口で乞うてみよ。』
……そうきたか、と。
これは、予め強く止められていなければ答えてしまっていたかもしれない。
何も言わないと決めているのだから、迷うことはない。
余計なこともしない。
女神、と呼ばれていたか。
それが本当だとしたら、これ自体がとんでもない無礼だ。
しかしそれが作法だと言われれば仕方がない。
「道に迷うことを罪とするのはあまりに酷(こく)というもの。かつての国産みの母として、命ある者への慈悲を賜りたく存じます。」
『フン。軽々しく口を利こうものなら縊(くび)り殺してやろうかと思っておったが…存外分別があるようだな。
よかろう。見逃してやる。
……我が落とし子らから逃れることができたのならな。』
その言葉が終わるが早いか、御簾がウゾウゾと不自然に揺れ始め、建物全体に地響きが轟く。御簾を跳ねのけ、泡立つ灰色の触手があなたを捉えようと迫ってくる。
☆アブホースの一部を見たことによる 正気度喪失 1/1d8
森谷友己(もりや ともき) :
1D100<=70 正気度ロール (1D100<=70) > 71 > 失敗
1d8 (1D8) > 4
SAN : 70 → 66
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