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「そういえば、2人は何で旧校舎の鏡を見たいの?」
おもむろに、彩世が口を開く。
「んー? ボクは冴木くんの付き添い!」
「俺は可愛い彼女を作るためだ」
2人の回答を聞いて、彩世は呆れたような声を出した。
「だったら2人で鏡を見に行っても意味ないでしょ」
彩世の言葉に、悠人は抗議の声をあげる。
「どういうことだ? 鏡に映すのは写真でも絵でも良いはずだろ」
「悠人の聞いた噂、私が知ってるのと違うみたいね。私が聞いたのは……」
彩世は、自分が知っている旧校舎の噂話を響と悠人に伝えた。
旧校舎の噂は1つや2つどころではなく、いくつもあるらしい。
彩世の話を聞いた後、悠人は力いっぱい叫んだ。それはもう、力の限り。
「俺の聞いた噂と違う!」
旧校舎の噂はたくさんあるが、彩世に教えてもらった話は悠人が知らないものだった。
しかも、「2人で鏡を覗くと、2人はずっと一緒にいられる」「好きな人と一緒に覗くと、恋人同士になれる」と、どれも好意を持っている相手と2人で鏡を覗くことが前提のようだ。ちなみに、文化祭の片付けの際に、意図せずに2人で鏡を覗いて、後々恋人同士になった先輩がいるらしい。
彩世の話が真実だとすると、今から悠人が行おうと思っていることは無駄である。
あくまでも噂だから、その中に真実があるかはわからない。全てがデタラメという可能性もある。
だが、もしかしたら。嘘ばかりの噂の中で、悠人の知っている噂だけが真実かもしれない。悠人は、その一筋の希望に賭けることにした。
「ここまで来たんだし、鏡を覗いてから帰ろうぜ」
実は、理想の恋人像である女性アイドルのブロマイドを悠人はこっそりと持ってきているのだ。
せっかくだから鏡の噂を試したい。
「いいよー」
「仕方ないから付き合うわよ」
悠人の言葉に、響と彩世も承諾する。
窓の外から見える空は、赤色から藍色の夜空へと変ってきていた。
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