いざ旧校舎

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いざ旧校舎

 放課後の旧校舎は悠人が思っていた以上に不気味だった。  初夏とはいえ、18時にもなると外は薄暗くなってくる。夕焼けが血のように赤く、目が痛くなりそうだった。  海辺なんかで見れば美しく感じるであろう夕焼けも、旧校舎の窓から見ると気味が悪い。自分以外に人がいるから耐えられるが、1人だったら即座に引き返すレベルの気味悪さだ。  玄関に近い中央階段は廃棄するのであろう楽器やら机やらが置かれていて、避けて通るのも大変そうだ。そのため、玄関から1番遠いところにある階段を使わなくてはいけない。薄気味悪い廊下を長々と歩くはめになってしまった。  悠人の横で彩世が制服の裾を掴んだ。怯えたような表情をしている。小学生の時、彩世はホラー系の話が苦手だったことを悠人は思い出した。クラスで流行っていた学校の怪談をテーマにした漫画も読まなかったくらいだ。    響はいつも通りの様子で、「暗いね~」などと呑気に話している。 「音無君は怖くないの?」  彩世が不思議そうに尋ねた。 「先生にもらったお守りがあるから大丈夫! 怖くないよ」  そう言って響が取り出したのは、ウサギの小さめのぬいぐるみだった。 (これ、お守りか?)  悠人は疑問に思ったが、ぬいぐるみは響に似合っている気がしたので、何も言わないでおいた。  彩世も「可愛いね」なんて言ってぬいぐるみを触っている。  響のぬいぐるみにお守り効果はないと思うが、悠人はこの空間の不気味さが少し和らいだように感じた。  悠人たちは、電気もついていない校舎内を進んでいく。窓から入り込む夕焼けだけが頼りだ。  旧校舎には音を出すものが何もないので、悠人たちの足音だけが薄暗い廊下に響いていた。
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