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悠人と彩世
階段を上がろうというタイミングで、響が急に声をあげた。
「ボク、トイレに行きたい! 新校舎のトイレに行くから、2人は3階に行ってて! 旧校舎の入口で待ってるね」
そう言うやいなや、響は悠人たちに背を向けて駆け出してしまう。
「おい、1人で大丈夫かよ」
慌てて悠人が声をかけるが、響は振り返って手を振るだけ。
「ウサギさんいるから大丈夫!!」
そのぬいぐるみにお守りの効果は無い。大丈夫じゃない。と悠人は思ったが、響はそのまま走って行ってしまった。
「どうしたんだろ、急に」
彩世が不思議そうにしている。突然の響の行動に悠人も疑問を感じたが、響はわりと謎な思考回路をしているので、いつものことだと深く考えなかった。
「今まで歩いてきた場所だし、大丈夫だろ」
「学校内だしね」
気を取り直して、悠人と彩世の2人で、鏡のある部屋を目指すことにした。
2人きりになるとさすがに沈黙が怖いのか、彩世は色々と話しかけてきた。
何だか恋愛に関する話が多い気がするが、女子高生はそういう話が好きなのだろう。あまり興味のなかった悠人は適当に流していたが、そんな悠人に彩世は質問をしてきた。
「悠人は鏡の噂を試して彼女が欲しいのよね。好きな子もいないの?」
「そうだよ。悪いかよ」
当たり前だろう、と悠人は面倒そうに返した。
「別に!」
悠人の答えを聞いた彩世の声が若干嬉しそうだったことに、悠人は首を傾げる。
響も謎だが彩世もおかしい。
だが、先述のとおり悠人は物事を深く考えない男なので、すぐに気にならなくなった。
相変わらず旧校舎は静まり返っていて、たまに窓の外で何か音がするくらいだ。悠人たち以外の足音が聞こえた気もするが、一瞬のことだったので勘違いかもしれない。
響がいた時は気にならなかった静寂も、2人きりになると気まずく、変な緊張感が走る。
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