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3階に上がると、ふいに彩世が口を開いた。
「音無くんがいなくなってから、何か変じゃない?」
悠人もその意見には同意だった。
さっきまでは響のおっとりした雰囲気が、恐怖を和らげてくれていたからだろうか。響と離れてから、一気に空気が重たくなった。
強い風が吹いているようで、窓がガタガタと鳴っている。木の枝でもあたっているのだろうか。窓ガラスが割れてしまいそうな激しさだ。
あまりの音に、彩世と顔を合わせてしまう。
2人揃って窓の方を向く。
違う。木の枝ではない。
何か黒い影が窓を覆って、音を出している。それは、木の枝や葉ではなく、明らかに人の形をしていた。
その人の形の顔にあたる部分。悠人はそこを見てしまった。真っ黒だと思っていた影に、白い部分がある。
ぎょろりと動く、目が。
「きゃあああああああ!!」
「うわぁああああああ!!」
彩世も悠人と同じものを見てしまったのだろう。2人同時に悲鳴をあげて、走り出した。
もう鏡の噂なんてどうでもいい。2人はとにかく走った。一刻も早く旧校舎から出たかったのだ。意識合わせをしたわけではないけど、息ピッタリだった。
旧校舎の玄関まで近づくと、遠くに新校舎の光が見えてくる。悠人は安心感で泣きそうになった。
彩世と2人で息を切らせながら旧校舎を出ると、響と一緒に何故か担任の千影がいた。「あ、叱られる」と悠人は覚悟を決めたが、千影はいつもの穏やかな微笑みで「変なことはしないように」と言うだけだった。悠人は旧校舎にいた時とは違う緊張を感じる。
怒鳴ったりチクチク小言を言われたりするよりも、精神的にくるものがあった。千影は物言いや雰囲気こそ穏やかで優しいが、何となく圧がある。悠人と彩世は素直に「はい、すみません」と返事をした。
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