バカにつける薬

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 薬屋を営んでいると、色々な奴がやってくる。ある時、男が僕の店に飛び込んできた。 「助けてくれ! 包帯と傷薬を! それより、かくまって!」  数学者だと言う男は怪我だらけで、たしかに手当が必要そうだ。学者がカウンターの奥に引っ込むと、男がもう一人飛び込んできた。 「数学者が入ってこなかったか」  息を切らしながら男が言うには、さっきの数学者が多額の借金を踏み倒してきたので、とうとう暴力的な手段で取り立ての最中らしい。 「学者ならここに」  僕は借金取りにカウンターの暗がりを指差すと、数学者は怒りでぶるぶる震えながらカウンターを飛び出す。 「なんで教えちゃうんだ! 人でなし!」 「包帯と塗り薬で、千百円です」 「さあ、今日こそ二千万円、耳を揃えて返してもらおうか!」  借金取りと僕が学舎に詰め寄ると、学者は愛想笑いでなおも逃げようとする。 「その、今取り組んでいる問題は、賞金が二千万、とんで千百円なんだ……だからもうちょっと待ってくれ、頼む!」 「聞き飽きた!」  借金取りが学者の白衣をつかむと、学者はうまくすり抜けて、追いかけてきた僕に近くにあった薬の棚を倒し始める。 「やめろ!」 「このやろう!」  僕と借金取りは激怒して、学者につかみかかり、取り押さえる。 「息の根止めてやる!」  借金取りが逃げようとする学者を縛り上げると、僕はそこらじゅうに散らばった薬をかき集めて全部飲ませた。 「これでお陀仏のはずだ……」  怒りで我を忘れた僕らは学者がくたばるのをしばらく見守ったが、学者は時々しゃっくりをするほかは、ピンピンしている。それどころか、苦しそうな顔になったかと思うと、大きなゲップをして叫ぶ。 「解けたぞ! 問題が!」  そして縄から抜けると、証明を手伝ってくれと借金取りをひっぱって店を出ていき、途方に暮れた僕だけが店に残されてしまう。かとおもうと、借金取りが戻ってきてこう言うのだった。 「迷惑かけたな。バカに付ける薬はないってことで、ここは一つ!」
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