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「ざっけんな! ウサギ料理、食えなくなっただろうがっ! 可愛い兎の絵を見ても泣いちゃうんじゃ! ああ、ウサギ飼いたい! ウサギ飼いたい! ウサギ飼いたい!!」
誰も止めない。
一緒に来ていた夫のシモンがちらりとフリダを見たが、無視して紅茶の入ったティーカップに角砂糖を落としている。
リオはそれをニコニコしながら見ていた。
「ああ、すっきりした」
運動でひと汗かいたような顔をして、フリダは蹴るのをやめると、ウエイターに酒を注文した。
「リオ、改めて、悪かったわ。あんたじゃなかったのね。あんたがこの兎に誘拐されそうなダリアを助けたんだって、ついこの間、父さんに聞いたのよ。父さんもちゃんと説明すればよかったのに、大切な所はぼかすんだもの」
「若い僕たちの未来を考えて、いろいろと口を噤んでいてくれたんだ。博士は最大限に僕たちに配慮してくれていたんだよ」
「犯罪者まで庇う気があったのは驚きだったけどね」
フリダはもうコニーの方を見もしない。
ミーナは、頭を打ってひっくり返っているコニーに恐る恐る近づいた。
抵抗しなかったので、足を蹴られた所でバランスを失ってそのまま頭をぶつけたのだ。
ミーナはなんとなく今しかないと思った。
フリダは、一杯目を一気飲みして、店員に二杯目の酒を注文している。
「ねぇフリダ。この兎、まだ蹴る?」
ミーナは、いくぶん機嫌の良くなったフリダに尋ねる。
「はぁ? もう顔も見たくないわよ」
「もういらないってこと?」
不穏な申し出にフリダは嫌な顔をする。
「ミーナ、あんた、まさか……」
「フリダが要らないんだったら、私に頂戴よ!」
「何を馬鹿なこと言ってんの? そもそも、私のじゃないし……」
フリダは困ってリオを見る。
「オネエサン、長年罪を償ってきたコニー先輩が、街に出るのは反対ですか? まぁ、仕事柄、街に出る許可は出ていて、仕事はしていたんですけれどね。でも、一切ヒトに手を出していません。このひと、自分を抑制剤漬けにして、今でも仕事以外の娯楽を持ちませんし。ろくに休みも取らずに仕事ばかりしていますよ」
フリダは何かを思い出すように遠くを見る。
「――あれから何年経つ?」
「十二年ですかね」
「リオはどう思うの? 近くでこの兎を見ていたんでしょ?」
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