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見合い相手とレストランに来たら、好きなようには飲み食いが出来るとは思えない。
フォークで串刺しにした肉をぶんぶんと振りながらミーナは続ける。
「病院に運ばれてきた時にね、あなたを見たの。あれ、リオにやられた後だったのね。ひどい怪我だった。あなたを治療するフリダのお母さん、すっごく怒っててね。変な雰囲気で治療が始まって、それなのに、コニーったら、ボコボコにされて、まだ勃起してて……」
ミーナは、なんだか面白くなってしまって、ぶふふっと、吹き出す。
コニーは眉間を揉む。
「あれが忘れられなかったんだぁ」
ミーナは、いっそ純粋に見えるほどに口の端を引き上げて、愛らしい笑みを浮かべる。
「俺のせいか……とんでもない時に出会ったもんだな。軽く死にたい」
ミーナが獣人に執着するきっかけを与えたのが自分だと知り、コニーは色々なことが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「コニーがあの時の獣人だったなんてね。コニーが私なんかにどうこうされちゃうような脛に傷のある獣人だったって、ラッキーだったなぁ。なんだかんだで、パパの持ち込む結婚話を蹴って来たのも、あの時見た、あのケモちんが忘れられなかったからなのよね……」
「早く忘れろ」
「それで、今日この後、どう? 今度はうちに来る?」
「……いやらしい女だな」
「私、なんか、お腹すいてきちゃった!」
ミーナがべろりと舌なめずりをする。
*
まぁ、セックスはするが、それはそれなのだ。
するべき仕事はあるし、ミーナもコニーもそこそこ忙しい。
食事をして、その後どちらかの家になだれ込んで互いを貪って、なんてことは何度かあったが、だからといって特別ロマンチックな展開が待っているというのでもない。
「今日は先にあがるわ」
ミーナは机の上に鏡を出して、化粧を直したり服の皴をのばしたりしている。
「まだ全然終わってないのに帰るのか?」
「今日はこれから、パパに紹介された人と会わなきゃならないのよね。私、ヒトと結婚するように言われてるから。そろそろ年貢の納め時なの」
紅を塗っていつもより毛艶がいいミーナを、コニーは苦々しく足から頭まで視線でなぞる。
ミーナは煽情的に腰をくねらせて、残っている書類をドンとコニーの机に置く。
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