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「あんた、まだ親の脛を齧っていたの? ああ、獣人に高額貢いだのばれちゃったのね」
「そうよ! フリダのせいだからね! 獅子獣人なんてうちに置かなきゃよかった! 最悪! 最悪よおっ!」
ミーナは少し前にフリダの診療所に入院していた獅子獣人を家に招いた。
そうすると獣人愛護法によって、ミーナに獣人の監督義務が生じる。
しかし、不運なことにその獣人の素行がすこぶる悪かった。
獅子獣人は贅沢の限りを尽くし、ミーナが脛を齧って貯めた貯金を根こそぎ使い切ってしまった。
「私のせいじゃないわよ! あんたが顔だけで獣人を選ぶからそういうことになるんじゃない。私は獅子はやめとけって忠告したわよ」
「なんですって! 結局あの獅子、あんたの妹とくっついたらしいじゃない。関係ないとは言わさないわよ! もう身内じゃない! 身内の不祥事でしょ!」
ミーナの所にやって来た獅子獣人は、どうやら最初からフリダの妹を狙っていたらしいのだ。
「関係ないわよ。だいたい、あんたがあの獅子とどうにかなれば、私だってあんなのを義理の弟にしないですんだのに」
「いいえ、悪いのはフリダよ。責任取って! それで、私に仕事をよこしなさいよ!」
ミーナの言動はめちゃくちゃだ。その場その場の気分で変わる。フリダはそれをよく知っていた。
「……なんだ、結局その為に呼んだのね」
フリダは、偉そうにしているミーナの後頭部を容赦なく引っ叩いた。
フリダは夫と一緒に獣人の患者を診る診療所をひらいている。
小さな診療所だが、いつも忙しい。
貧窮したミーナは、そこで働かせてもらうつもりでフリダを呼び出したのだ。
「獣人漁りをするつもりだったら、他を当たって」
獣人の患者に色目を使うので、フリダはミーナを雇ったことがなかった。
いつものように突き放されて、ミーナは酒をこぼしながら泣き始めた。
よく手入れされた黒髪がさらさらとテーブルに流れ、こぼした酒を吸う。
「獣人はもうこりごり! もう、私なんか一生独りでいればいいのよ」
ミーナのような派手な顔の美人が大声で泣くと酒場がざわつく。振られて酒におぼれる女がいたら、声をかけようとする飲んだくれだっている。
フリダは眉をしかめた。チラチラと視線を感じるのだ。
声をかけられると面倒なので、フリダはミーナの話を聞いてやることにした。
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