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「私、モテないわ」
「モテないわねぇ」
診療所で働き始めたミーナは親切な受付として評判がいい。
「こんなにたくさんの獣人と毎日会ってるのに。すごく話しかけてるのに、ぜんぜんモテない。なんでよ! あんたの妹はしょっちゅう患者さんから声掛けられてたのに」
「馬鹿じゃないの? ここは診療所よ。腹が痛いとか、骨折ったとかでやってくる獣人が、そんな余裕あるわけないじゃない。うちの妹はそういう体質なだけよ。あんたは逆に、獣人から避けられるような嫌な匂いでもするんじゃないの?」
フリダがせせら笑う。
「ちゃんと毎日お風呂入ってるわよ」
「そういうんじゃないわよ。獣人には合わないフェロモンでも出してるんじゃないのかってこと」
「ええ?! そんなことあるの? い、いまさら……そんなのひどいわ!」
ミーナは絶望した。
「こんなにあからさまに相手にされないっていうのもなんか面白いわね。今度、血液採らせてくれない?父さんにも知らせようかしら。でも、まぁ、安心したわ。獣人の方から避けてくれるなら、あんたが患者にどうこうしようとしても無駄だものね」
ミーナはその日から、親切な受付から、獣人の患者に自分の匂いについて聞きまくる、面倒な受付に変わった。
その後も、ミーナは特に問題もなくフリダの診療所で働いている。
ある日、ミーナが眠い目をこすりながら出勤すると、フリダが腕を組んで難しい顔をして待っていた。
「どうしたの? 凡庸なヒト科の夫と喧嘩でもした?」
「うちの夫の悪口言うならすぐに解雇よ! ――そうじゃなくてね、ああ、どうなんだろ? ミーナでいけるかしら?」
フリダは高く結い上げた金髪の頭をガシガシと掻いた。
「ミーナ、あんたに別の仕事場を紹介しようと思ってるんだけど。興味ある?」
獣人との出会いがないのなら、ミーナにとってどんな仕事でも変わらない。よくわからないから黙っていた。
「父さんからの頼みでね。警察関係のある部署でなんだけど。至急、事務職が欲しいんだって。ちょっと特殊な職場でね、身元が確かで、獣人に慣れている人がいいから、心当たりないかって。あんた、素行は最悪だけど、実家の身元が確かだからなぁ」
獣人ときいて、ミーナの架空の尻尾がブンブンと勢いよく振られた。
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