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病院に担ぎ込まれた兎の獣人は鼻が折れるほど殴られていたし、肋骨にもヒビが入っていた。
どうやら他の獣人の番に手を出したらしい。
それにしてもボロボロだ。耳は毛を剃られ、腕には噛み跡まである。
「返り討ちにあうなんて弱っ! あ~、兎はダメね、やっぱり草食じゃないほうがいいわ! 肉食の獣人がやっぱりかっこいい!」
ミーナは担架で運ばれていく兎の獣人を見て毒づいた。
毒づきはしたが、全裸に剥かれ傷の処置をされている獣人から目を逸らすでもなく、細部まで舐めるように観察し続けている。
熱い視線が注がれているが、患者は気を失っていてそれどころではなさそうだ。
そうしているうちに、慌ただしく白衣を身に付けながら担当医らしい女性が入ってきた。
ミーナの父が経営する病院の規模は大きく、時々こうやって獣人も運ばれてくる。
獣人が病院に来るのは珍しく、獣人科の医師は非常勤だから、その都度、専門医に病院まで来てもらわなければならない。
今日はだいぶ早く到着したようだが、医師は相当にイラついているようだった。
ガン!!
大きな音を立てて仰向けに寝かされた患者の寝台を忌々しそうに蹴りつけた。
ぶるん。
医師に蹴りつけられた拍子に何かが揺れ、紅い残像がミーナの脳裏にくっきりと焼き付いた。
それがミーナと彼のソレとの出会いだった。
*
それまでだってミーナは獣人が好きだった。
普通にイケメンが好きだが、どうせだったら耳と尻尾がついていたらもっといい。そんなお得感で獣人が好きだった。
しかし、それを決定的に拗らせたのはあの出会いのせいだ。
ミーナはあの獣人に出会ってしまったせいで、盛大に青春を無駄にすることになる。
学生時代、盛ったミーナは必要以上に色気を振りまいて、獣人との出会いを待った。
ミーナの容姿は可憐だし、親も裕福だ。
性格も明るい方だったので、たくさんお誘いがあった。
しかし、不幸なことにその中に獣人は一人もいなかった。
当たり前だ。
街へ番を探しにやって来る獣人は、法によって成人にしか求愛することを許されていないのだから。
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