夏の終わり

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********  ピッ、ピッ、ピッ……  機会音がうっすらと耳を刺激する。  遠のく意識が少し戻ってきた気がして、少しだけ目を開けてみる。  「亮太?亮太!」  目の開けた先に、一番に見えたのは、母だった。 「今、先生呼ぶからね」  母が近くに立っていた父に言い、父は廊下を歩いている看護師に伝えているようだ。 「母さん、僕、どうしてここに……?」  今、自分が何歳かも混乱している。  あれ、さっきまで同僚とお昼行って、あの嫌な記憶を思い出して、それでも生きててよかったって。  そう思ったんだよな。 「覚えてない、の?あなた屋上から……」 「おい!今日は、もう、いいじゃないか。生きてくれただけで……」  父が母の言葉を遮り、涙ぐみながら言う。  屋上?  なに言ってるのだろうか。  だって、ぼくはもう社会人で、良い仲間に恵まれて……  そのときふと手に違和感を感じ、目を向ける。  包帯でまかれた手。  あれ、いつ怪我したんだっけ。 「え」  僕は小さく声を出す。  まくられた袖は白いワイシャツのようなもので、自分が長袖のワイシャツを着ていたことに気づく。  あれ、変だな。  僕はさっきまでいたはずの会社を思い出す。  みんなでエレベータを降りて、それから、どうしたんだっけ。  いや、確か、暑くて、半袖のワイシャツを着ていたと思っていた。 「……この腕じゃなかなか復帰出来なさそうだね」  僕がポツリと言うと、母が頭を優しく撫でる。  もう僕は子供じゃないのに。 「そうね。少し時間がかかるかもしれないね」 「あ、でも、連絡はしておかないと」  僕が起き上がろうとすると、母がそれを制す。 「大丈夫よ。お母さんが連絡するから。今は、安静に……」  僕はふと笑う。 「社会人にもなって、お母さんが連絡は恥ずかしいよ。自分でするから」 「……なに、言ってるの?」  母は、目を丸くする。 「ちょっと疲れてるんだよ。きっと。とりあえず、今は休みなさい」  父が僕に言う。 「え、だから、連絡を……」  そのとき、先生が病室に入ってきた。
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