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ピッ、ピッ、ピッ……
機会音がうっすらと耳を刺激する。
遠のく意識が少し戻ってきた気がして、少しだけ目を開けてみる。
「亮太?亮太!」
目の開けた先に、一番に見えたのは、母だった。
「今、先生呼ぶからね」
母が近くに立っていた父に言い、父は廊下を歩いている看護師に伝えているようだ。
「母さん、僕、どうしてここに……?」
今、自分が何歳かも混乱している。
あれ、さっきまで同僚とお昼行って、あの嫌な記憶を思い出して、それでも生きててよかったって。
そう思ったんだよな。
「覚えてない、の?あなた屋上から……」
「おい!今日は、もう、いいじゃないか。生きてくれただけで……」
父が母の言葉を遮り、涙ぐみながら言う。
屋上?
なに言ってるのだろうか。
だって、ぼくはもう社会人で、良い仲間に恵まれて……
そのときふと手に違和感を感じ、目を向ける。
包帯でまかれた手。
あれ、いつ怪我したんだっけ。
「え」
僕は小さく声を出す。
まくられた袖は白いワイシャツのようなもので、自分が長袖のワイシャツを着ていたことに気づく。
あれ、変だな。
僕はさっきまでいたはずの会社を思い出す。
みんなでエレベータを降りて、それから、どうしたんだっけ。
いや、確か、暑くて、半袖のワイシャツを着ていたと思っていた。
「……この腕じゃなかなか復帰出来なさそうだね」
僕がポツリと言うと、母が頭を優しく撫でる。
もう僕は子供じゃないのに。
「そうね。少し時間がかかるかもしれないね」
「あ、でも、連絡はしておかないと」
僕が起き上がろうとすると、母がそれを制す。
「大丈夫よ。お母さんが連絡するから。今は、安静に……」
僕はふと笑う。
「社会人にもなって、お母さんが連絡は恥ずかしいよ。自分でするから」
「……なに、言ってるの?」
母は、目を丸くする。
「ちょっと疲れてるんだよ。きっと。とりあえず、今は休みなさい」
父が僕に言う。
「え、だから、連絡を……」
そのとき、先生が病室に入ってきた。
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