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一輪の花
これは僕がしでかした罪に対する罰なのだろう。
僕は、人を殺した。
僕に優しくしてくれた、花屋の女の人を殺した。
その人は長くてきれいな髪の毛を一つに束ねて、ピンク色のリボンを結んでた。
人の目が怖くて、いつも下を向いて歩いてた僕。
ある朝、店先に花を並べていた女の人と目が合った。
いそいで目をそらそうとしたその時、
その女の人は少し口角を上げて頭をぺこりとした。
誰からも愛されなかった僕に、微笑んでくれたんだ。
それからは、花を毎日1本ずつ買うことにした。
たった1本しか買わないのに、その人はピンクのリボンをなびかせながら、いつも微笑んでくれたんだ。
僕は彼女に会うためだけに息をした。
吸って吐いて……。
呼吸ってこんなに楽に出来るんだね。
だけど、ある夜、店の前を通ったら彼女は知らない男と親しげに話していた。
その顔に浮かんだ笑顔は、僕に対するそれよりもずっと嬉しそうに見えた。
どうして。
どうしていつも僕のことを見捨てるの。
僕のことを見てよ。
僕は、いつだって抱きしめてほしいのに。
次の日の午後、いつものように微笑んでいる彼女に近づいた僕は持っていたナイフで彼女の腹部を突き刺した。
何度も何度も突き刺した。
真っ赤な血が広がり、その中に僕達は二人きりになった。
(これで、ずっと一緒にいれるよ)
僕は、彼女を抱きしめた。
お母さん。僕はお母さんが大好きだよ。
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