繰り返される恐怖

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繰り返される恐怖

「ゲホッ、ゲホッ」 息苦しさを感じて僕は目を開けた。 咳込みながら体を起こすと、カーテンが燃えているのが見えた。 すごい煙が蔓延している。 (今回は焼死なのか) 煙をいっぱい吸い込んだら、気絶して熱さを感じないで済むのだろうか。 僕は深呼吸しようとしたがむせてしまい、吸い込めない。 煙の向こうにドアが見えている。 逃げるか。 いや、逃げても無駄だ。 逃げれたと思ってもまた同じ場所に戻るに決まっている。 いつもそうだ。 僕の考えるべきは、どうすれば少しでも楽に死ねるかだけ。 あっという間に部屋中が炎に包まれ、その火は僕に燃え移った。 「熱いよ!怖いよ!」 僕は、のたうち回る。 (どうか、もう許して……) そう思った瞬間、僕の意識は飛んだ。 気付くと僕はどこかに立っていた。 遠くからカンカンカンという音が聞こえる。 これは何の音だ。 僕は目を見開き、急いで左右を見る。 ここは線路で、聞こえたのは警報機の音だ。 目を細めると、線路の遥か向こうにライトが見えた。 足を動かそうとしても、まるで接着剤で張り付けられたように膝から下は動かない。 「やめろ、いいかげんにしろ!」 僕は涙を流しながら、叫んだ。 無駄だと知っていても、声に出さずにはいられない。 どんなに命乞いしても、その思いは届かないと分かっているのに。 泣いても叫んでも、その声は空を舞うだけだ。 ガタンゴトン、ガタンゴトン……。 振動と共に次第に音が大きくなって、近づいてくるライトが太陽のように僕を照らす。 (怖い、怖い、怖い) 足の付け根から、生温かい体液が下へ下へと流れていく。 僕は、恐怖のあまり失禁していた。 警笛がなり、僕は両腕で顔を覆う。 次の瞬間、痛みが全身を貫き、僕の思考は真っ白になった。 僕の体が心地よく揺れている。 もしかして僕は、揺りかごの中にいるのか? 揺らしているのはお母さん? 目を開けたら、お母さんが優しい顔で僕の顔をのぞき込んでいるのかもしれない。 今までどこにいたの、お母さん。 僕はずっと待っていたんだよ、ずっと。 とめどなく涙が流れる。 何だろう。何か手が濡れている。 手だけじゃない、体のあちこちに冷たさを感じる。 僕はうっすらと目を開ける。 そこにお母さんはいなかった。 見えたのは、黒い雲。そして降りしきる雨。 天を切り裂く強烈な光と共に、爆音が鳴り響く。 ゴロゴロゴロ!! 「ひぃぃぃ」 荒れ狂う海の真ん中、僕は小舟の中にいた。 「いつまで続くんだ! 殺してやる!」 立ち上がって、僕は怒鳴り上げた。 その瞬間、巨大な光に包まれ、10億ボルトの電流が僕の体を駆け抜けた。 「ギャアァー」 僕の体は小舟もろとも、消滅した。 カミナリが落ちても、僕はまだ生きている。 死にたくても死ねない。 きっと永遠に。
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