治験

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治験

「今回、皆さんに治験(ちけん)していただく薬品は、抗うつ剤となっております」  事前検診の時から思っていた違和感が、徐々に形を成していく。  いつもより治験の拘束期間が長いこと。  それを加味しても余りある報酬の良さ。  初めて聞く製薬会社。  総合病院というよりかは、どこか研究所チックな、割り当てられた個室。  で、この前振りだ。 「考えられる副作用として、気持ちの浮き沈み、軽い目眩や幻聴といったもの。もちろん第Ⅰ相試験ですので、症状としては弱くなると思いますが……」    金目当てに今まで色々と試してきたけれど、抗うつ剤の類は初めてだった。入院自体はあっても、個室まで用意されたのも初めて。  全く不安が無いかと言えば嘘になる。  けれど……まあ考えようによっては、またとない稼げるチャンスだ。  治験というのは、健康で暇を持て余した大学生にとっては神のようなバイト(もといボランティア)だ。実際、俺を含めて検診に集まったのも若い人が多い。  新薬の臨床試験――と聞けば物怖じするが、実際は寝て過ごすだけで、得られる額は高収入。どれだけ卑屈(ひくつ)な性格だろうと、関係なく(もう)けられる。とりあえず衣食住には困らない。まさに神バイト。投薬後の採血ラッシュに耐えられるなら、これ以上の条件は他に無い。  澄ました顔の女医が、入院後のスケジュールを事務的に話していく。  一通りの説明を終えたのか、最後に冷めた目で俺の方へ向き「どうされますか?」と訊いてきた。  答えは考えるまでもなく決まっている。  俺は四ヵ月振りに、その台詞を口にした。 「参加します」  これから二週間、俺は製薬会社のモルモットだ。
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