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「実はマスミくん自身の研究が、世界に認められるレベルに達しています。次の研究論文を思い切って国内ではなく、世界に出してみてはどうでしょうか?」
「……世界、に?」
信じられなかった。
国内で通用しない研究が、世界に通用するはずなんてない。
「マスミくんほどの研究者の才能を、国内で燻らせておくわけにはいきません」
博士の言葉に偽りはなさそうだ。
研究室をたらい回しにされてきた過去を持つマスミには、キツネにつままれたような思いがしている。
「私のほうこそ、マスミくんが世界で認められて助手として私から巣立ったとしても、ずっと私はあなたの傍に居続けてもいいですか? とお願いしたいのです」
果たして好きな人にそんなふうに言われて、ノーと告げられる人物がいるだろうか。
返事の代わりにマスミは感極まって、ぽろぽろと大きな雫を流す。
「博士ぇ」
「ごめんね、マスミくん。私が鈍い男だからずっとひとりで苦しい思いをさせてたね」
博士のその言葉に、とうとうマスミは声をあげて泣き出した。
泣きながらマスミはやっぱり博士のことを愛おしく思い、この人のことを一生愛し続けたいと再確認した。
「キミは立派な私の助手であり、研究者ですが、これからは私のとくべつな人にもなってほしいです」
めずらしく博士がびしっとした口調で言い切り、胸に抱いていたマスミの身体を少し離し、対面するような形をとった。
途端に、二人の間に幸せな緊張が満ちる。
「はい」
迷うことなく頷いたマスミは、返事とともに飛びつくように博士へ抱きついた。
そして博士を見上げると、「今度は一緒に、二人の愛をより深める方法を研究しませんか」そう誘ったのである。
END
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