教えて、ゴマ博士!

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教えて、ゴマ博士!

トンカツには、すりゴマソースが我が家の定番だった。 元気な日も悲しい日も娘が産まれた日も息子が結婚した日も、すりゴマソースにつけたトンカツは僕に癒やしをもたらしてくれた。荒目にすりつぶしたゴマに、市販のソースを投入する。それだけでトンカツがおいしくなる。 地球から市販のゴマが消えたのは、どれだけ前のことだったか。 宇宙からやってきた知的生命体は、ゴマに価値を見い出した。見返りとして提供される地球外惑星の技術は夢のような生活を可能にした。各国のゴマ生産地は最初こそ特需を歓迎していたが、求められる生産量は年々増えていった。 ゴマは連作障害を起こす植物だという。僕は素人なので詳しくないが、同じ土地に植えると病気になるらしい。需要に対して供給が追いつかなくなり、世界の食卓からゴマは消えた。僕にとって薬にも等しい食材は、地球外惑星へ輸出するためだけの『商品』に成り果てた。 最近はゴマの味を再現した代替肉の売れ行きが好調だ。皮肉なことに、この代替肉はゴマと引き換えに入手した技術を土台にして作られている。ゴマを愛してやまない僕が、30年をかけて誕生させたものだ。地球外の原理で動いている機械の仕組みを理解するのに、20年はかかっただろうか。 真剣な表情でメモを取っている小学生たちが顔を上げる。 代替とはいえゴマの研究所に来るだけあって、みんなゴマが好きなようだ。 「他になにか、聞きたいことはあるかな」 「ゴマのことは、どれくらい好きですか?」 「地球で育つ食べ物の中で、1番好きだよ」 僕の回答に気を良くしたのか、子供たちが歓声を上げる。 お土産に渡した代替肉のゴマを大切そうに抱え、彼らが帰路につく。職場訪問ということでインタビューを受けたが、昔語りのようになってしまった。 これでよかっただろうか。 緊張していたのか、おなかが痛い。景気づけに明日はゴマモドキを食べよう。 そうだな、トンカツにしようか。すりゴマソースにつけて食べるのだ。明日の夕飯を楽しみにしながら、妻に連絡を入れた。
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