おくすり手帳

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 これを読んでいるということは、キミは今薬局にいて、おくすり手帳を受付に出したときってことかな。それともおくすり手帳を返却された時に偶然目に入ったのかもしれないね。まあ、どちらにしたってどこかの薬局の中で読んでいることは間違いないでしょ。キミが家でおくすり手帳なんて開くわけないもの。  まずこれを読む前に一旦落ち着いてどこかの椅子に座ると良いよ。薬局の待合室にはたくさん椅子があるもんね。そのどれか一つに腰を下ろしてゆっくり深呼吸してから読み始めるといい。それか一旦おくすり手帳を閉じて家で読むのもいいね。わたしが書いたこの文章はもうキミに見つかってしまったわけだからさ。逃げも隠れもできないわけだ。どっかのスパイ映画みたいにこの文章は一度見たら自動的に消去なんてされないから安心していいよ。  さて、どこから話したもんだろうね。こんな風に誰かに手紙を書くことなんて初めてだから正直書き方がわかんないよ。起承転結を意識して書いたら読み応えのある手紙のなるかな? この手紙を書き始めたきっかけはこうで、血と涙を流しながら何度も何度も書き直しを重ねて、ようやく綺麗に書き上げました。みたいな? もうよく分かんないや。やっぱわたしの書きたいことを自由に書いていくことにしようかな。  そもそもキミがこれを見つけるのがいつになっているのかわたしにはちょっと想像つかないんだよね。もしかしたら、キミが薬を貰い続けてこのおくすり手帳を使い切った時にようやく発見したかもしれない。それだと多分何十年って経ったあとだよね。だってこのおくすり手帳にはまだたくさん余白があるもん。あ、でもそれってこれからキミがたくさん病気にかかってもおくすり手帳を買い換える必要はないってことだよね。それはそれで安心だ。いくら病気にかかってもいいってことだもん。よかったよかった。 ……ってあれ、話が逸れちゃったね。なんの話をしてたんだっけ? あ、そうそう。この手紙をキミがいつ読んでいるかって話だ。手紙はこういう時すぐ振り返れるから楽だよ、ほんと。 でもさ、よく考えてみたら、さっきの話とは真逆の可能性もあるわけだよね。キミはわたしの考えなんかお見通しですぐ見つかっちゃてるって場合。それだったらそれでちょっと嬉しいけど、ちょっと恥ずかしいかも。だって、わたしはキミがこの手紙を読むのは少なくとも数年後という想定で書いてるからね。
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