おくすり手帳

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 まあ、とにかく何か言いたいかっていうとさ。  キミがわたしのストーカーだって分かったあの時。もちろんすっごく怖かったんだけど、同時になんだかキミに感謝してたんだよね。いや、今も自分で書いてて変なこと言ってるなぁっていう自覚はあるよ。もちろん。でも実際そう感じちゃったんだから仕方ないよね。 わたしたちはアパートのお隣さん同士でしかなかった。たまにすれ違うだけの関係性だったのに、キミがどうしてわたしなんかのストーカーになっちゃったのか正直今でも検討もつかない。  でもなんとなく分かるのは、わたしたちは出会ったタイミングがバッチリだったってことだね。本来、絶対噛み合うことのない歯車が奇跡的に噛み合っちゃったわけだ。つまりね、キミは誰かを必死に求めていたし、わたしは誰かに必要とされることを切実に求めてた。わたしたちはお互い同士がお互いのおくすりだったわけだね。  あ、そうだ。キミに一つ伝えたいことがあったことを忘れてた。書く順番がめちゃくちゃになっちゃたけどこれだけは言っとかなくちゃ。それはさ去年の冬のことなんけど、キミは覚えてるかなぁ。その日の夜は今にも雪が降り出しそうなほど冷え込んでてさ、わたしはガクガク震えながら家に帰ってた。それでいつもの交差点を過ぎたタイミングでキミがわたしのあとをつけてくるのがわかったの。真っ黒な服に身を包んで、帽子を深く被っててさ。今考えてみたら、あれだけ明らかな不審者的風貌なのに今まで警察に事情聴取をされなかったのって正直奇跡だと思うよ。ほんとに。わたしは、よくこんな寒い日にもストーキングしてるなんてすごいなぁ、なんて呑気なことを思いながら歩いてた。  それでね、家についてあとは部屋に入るだけだったんだけど、あの時さ、わたし家に入ってから鍵をかけなかったんだよね。自分でもなんでかはわかんなかったんだけど、玄関を閉めて鍵を回そうとしたところで、ここで鍵を閉めなかったらどうなっちゃうんだろうって急に思ったんだよね。  多分キミはすぐに家に鍵がかかっていないことに気づいたと思う。でもキミはいつまで経ってもわたしの家には入ってこなかったよね。あれにはわたしちょっとガッカリだったな。キミがそんなヘタレだとは思ってなかったよ。毎日女の子をストーキングする度胸はあるのに、肝心なところでビクついちゃなんてね。  まあ、そういうところが好きだったところでもあるんだけどさ。
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