<1・ウラミ。>

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 ***  きっかけはあまりにも些細なこと。クラスのとある女子と、綾乃が揉めたことである。あまりにも彼女の態度が悪かったので、綾乃が“真っ当な注意”をしたのだった。しかし、それがどうやら彼女と、その取り巻きの少女達のカンに触ったらしい。  一週間前からだ。トイレに籠れば水をぶちまけられ、机の中に入れてあったノートや、壁に貼った綾乃のポスターに落書きされ、時には落とし穴なんて手間のかかるものに落とされ――そういう嫌がらせが、繰り返されるようになったのは。  トドメが学校の裏掲示板。綾乃がやってもいない悪行を捏造され、叩かれまくっている始末。犯人の姿ははっきり見ていないが、あの女とその友人達の仕業であるのは明らかなことだった。 ――なんで、あたしがいじめられないといけないの。悪いのはあいつらなのに。  最近はストレスで、授業中にトイレに駆け込むことさえある始末。これではまともに勉強することさえ叶わない。何より、死ぬ気で勉強して合格した高校にどうして、毎日のようにイライラしながら通わないといけないのか。  復讐してやりたい。あいつらをぎゃふんと言わせてやりたい。そして這いつくばるメスガキたちを見て、ざまあみろと笑ってやりたい。 「くそっ……くそくそくそくそくそっ……!」  トイレから出て手を洗い、ハンカチで濡れた髪と制服を拭う。幸い、濡れたのは頭と上半身だけだった。ポケットに入っていたハンカチは無事。これなら多少誤魔化しがきくだろう。鏡の中、ボブカットに丸っこい顔の自分とにらめっこをしながら、丁寧に頬を伝う水分を拭きとっていく。  問題なのは、ついさっきチャイムが鳴ってしまったこと。次は移動教室。どうあっても、間に合わない。途中から理科室に入ったら確実に笑い物にされてしまう。次の授業はもうボイコットするしかなかった。 「くそくそくそくそくそくそくそっ!どうして、どうしてあたしがこんな目に遭わないといけないのよ!あいつらが、あいつらが悪いってのに……!」  苛立ちと同時に足を踏み鳴らす。面倒だが、どこかで時間を潰すしかないのだろう。そう思った時、ポケットの中でスマホが震えるのがわかった。  見れば、クラスメートの長谷部歌(はせべうた)からのLINEだった。一応、自分にとって数少ない友人とも呼べる存在である。どうやら授業が始まっても戻ってこない綾乃を心配したということらしい。こっそり送ってきたのだろう。 『綾乃ちゃん、大丈夫?トイレに行ってたみたいだけど、また具合悪いの?先生に私から言っておこうか?』 「……ったく」
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