夏の終わりの教室

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「おい、おれって実は、幽霊を引き寄せて、交信する力があるんだぜ」  おれがそう言うと、まわりに集まった三人は、バカにしたように笑った。 「なんだよ、なんで笑うんだよ。信じないのかよ」  おれは力んで、ドンと机をたたくまねをしてみせる。  まわりの三人は、ますます笑った。  無理にしかめっつらを作っていたおれも、つられて笑う。冗談ですませられるなら、それもいいな、と思う。  八月二十九日、午後四時の教室は、まだ明るい。  天井に取りつけられたエアコンは、ついさっき、教務室にある電源で切られたようだ。でも、まだ冷気のなごりが残っていて、教室内はそんなに暑くない。  暑くはないのだが――。 (まったく、もう!)  おれは舌打ちしたくなる。  教室にいるのは、おれたち四人だけ。  例によって、テストで赤点を取った生徒に対する補習なのだった。  たいていの者は、お盆休みまでの、夏休み前半で補習は終わりだ。  でも、おれみたいに、特別にデキの悪い生徒は、こうして夏休みの終わる直前まで補習が続くのだ。  窓の外の、雑草だらけの中庭に目を向けて、ため息をつく。 「あーあ、夏ももう終わるっていうのにさ……おれの夏休みはどこへ行っちまったんだ? 返してくれ、ってんだよ。な、そうだろ?」  まわりに目をもどして、同意を求めると、三人がまた笑った。 (そんなの、勉強しないショウヘイが悪いんでしょ?)  そう言いたそうな顔をしているのは、小柄でかわいいメイだ。ちなみに、ショウヘイというのはおれの名前。  残る二人、背の高いハヤトも、小太りのコウタも、うんうん、とうなずいている。  まったくもう、友だちがいのないやつらなんだから。 「いーよいーよ、これからファミレスにでも行こうと思ったけど、お前らなんて――」  と、言いかけたときだ。 「おーい、渡辺」  ふいに、後ろのほうから、おれの名字を呼ばれた。
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