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 今にして思えば人間という生き物は外面は良くても裏で汚い行為に及ぶことができる、という事実を知っている。だが、この時の僕はなんというか・・・そう、単純だったのだ。自分のよく知る友達たちの母親と同じように、この人もまた温かい人なのだと、その表情と言葉を見て思い込んでしまった。  それから陽菜の母親とはしばらくの間、陽菜の話で持ちきりだった。昔から体が弱く、あまり激しい運動はできないこと。どこか冷めたような雰囲気からあまり友達が多くないこと。そして、父親を早くに亡くしていること。それ故に寂しい思いをさせてしまっているし、経済的にも満たされているとは言い難いこと。  こんな込み入った事情まで陽菜の母親が話してくれたのは、僕がこの町の人間でないことを知ったからだろう。僕は昨日陽菜にしたのと同じような身の上話を伝えていた。  そしてなんとなく合点がいく。陽菜はそういった諸々の事情を含めて家庭がメチャクチャと言ったのではないだろうか。中学生ともなれば分別はつく。自分の家庭がおおよそ一般的な範疇かと言われれば微妙に思えただろうし、望むような進学ができない可能性があることだって分かっていたに違いなかった。 「陽菜もお祭りには行くと思うわよ。だから宿題を終わらせるんだ、って頑張っていたから」 それを聞いて僕は心がぱあっと晴れやかな気持ちになった。期待半分諦め半分だった陽菜との再会が、叶う可能性が大きくなったのだ。 「私もこの後用事があるから、家に帰る頃には陽菜と入れ違いになるかもしれないけど、もし会えたら伝えておくわね。ええと・・・優くんが楽しみにしているって」 「はい、ありがとうございます」 そう言って陽菜の母親と別れる。いつの間にか空には大きな入道雲がかかっていて辺りは涼しくなっていた。陽炎も消えていた。
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