1人が本棚に入れています
本棚に追加
そこからの時間はあっという間だった。焼きそばやらチョコバナナやらを分け合いながら空いているスペースを見つけて、昨日と同じように思い思いの話をした。
陽菜は昨日よりも打ち解けてくれたようで、随分と笑顔が増えたように見える。それが何より嬉しかった。
日がすっかり落ちて祭囃子が最高潮に達した頃、周りのざわめきが一際大きくなった。そろそろ花火の時間なのだろうか。
「あ、そういえばさ。さっき陽菜のお母さんに会ったんだよ」
その言葉を聞いた陽菜の表情を僕は今でもはっきりと覚えている。あれはそう・・・能面のような表情。ぷっつりと感情の回路が切れてしまったように陽菜は無表情で「それで?」と続けた。
「え、あ・・・いや。それだけだけど」
瞬間、花火が空に弾けた。陽菜の横顔を赤や緑の光が照らしては消えていく。
「優くん。私ね。お母さんにいつも殴られるんだ」
ぽつりと陽菜は言った。
最初のコメントを投稿しよう!