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 定規で引いたように真っ直ぐ伸びる道路にはもうもうと陽炎が揺れている。僕が陽菜(ひな)と出会ったのは、そんな夏の日の午後だった。  その時僕は中学二年生で夏休みの終わり頃。母方の祖父母の家に預けられていた。決して楽しい夏の思い出を作りに来たのではなかった。両親の不仲がついに限界を迎えたその夏、離婚に伴ういざこざのため半ば無理やり祖父母に預けられる形だった。  そんな風にしていきなり預けられることになったものだから、祖父母たちも僕をどのように扱えばいいか困惑しているようだった。祖父は定年まで勤め上げたタクシー会社を退職した後もシニア人材として送迎の仕事をしていたし、祖母も時短ワークとはいえ近所のスーパーでパートタイマーをしていた。だから日中、僕は誰もいない家で時間を潰しているか、もしくは外に出てふらふらと散策でもするしかなかった。  祖父母の家は某県の海沿いの静かな田舎町にあった。弓なりに伸びる砂浜は観光資源として扱うには些か汚く、地元の釣り人が日がな一日釣りに勤しんでいた。  それでも僕にとっては自然豊かな景観は目新しく思えた。両親と住んでいた場所は首都圏に程近く、車で数十分もかけないと緑豊かな自然とは触れ合えなかったからだ。  その日も茹だるような暑さの中で海で黄昏た後、探検気分で知らない路地裏を散策していた。少しだけ休憩しようと思ってたまたま見つけた自販機脇のベンチに腰掛けると、なけなしのお小遣いでジュースを買って喉に流し込む。  そんな時、不意に視線を感じた。振り向くとそこにはちょうど自分と同い年ぐらいの背格好の女の子がいた。麦わら帽子の下にはロングヘアで白く凛とした顔立ち。真っ白なワンピースに薄手だが長袖の黒ジャケットを羽織っていて、こんな時期に随分と暑そうな格好だなと思った。それでもクラスの女子たちと同じように日焼けを気にしているのだとしか思わなかった。女の子は少し首を傾げて言った。 「こんにちは。地元の子じゃないよね?」
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