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まるで笛のように綺麗な声だ。そんな風に思ったのを覚えている。異性との関わり方で特にギクシャクしがちな年頃だったからだろう。僕は曖昧な返事をしながら頷くだけだった。
「ふうん。どこから来たの?」
首を傾げて見上げるようにこちらを覗き込みながら女の子は尋ねる。
「東京だよ」
ぽつりと呟くと女の子は「へぇ」と目を丸くした。まるで珍しい生き物でも見るかのように。
「じゃあシティボーイなんだね。いいなぁ。羨ましい」
何が羨ましいのか僕には分からなかったが、女の子はたしかにそう言った。僕に言わせれば海や山が近くにあるこの街の方が無機質な建物が立ち並ぶ東京よりよっぽどいいと思うのだが、隣の芝は青いのだろうか。
「私、中町陽菜。君は?」
「優。木元優」
もしかしたら木元じゃなくなるかもしれないけど。そう付け加えると陽菜は神妙な顔をして口を開く。
「両親は仲悪いの?」
悪いなんてもんじゃない。外に女を作って家庭を蔑ろにする父。精神の均衡が崩れて半ばヒステリーになってしまった母。世間的には家庭不破という言葉で収まってしまうが、当事者にとっては地獄そのものだ。
「分かるよ。私の家もメチャクチャ」
どこか達観したようにそう笑う陽菜に、僕は言いようのない力強さ、逞しさを感じた。
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