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 それから暫くの間、ベンチに腰掛けてふたりは思い思いに話し合った。高校生になったらしたいこと。将来の夢。そんな青臭い話ができたのも、僕たちが互いをこの夏限りの友人のように思えたからだろう。それがいつになるかは分からないけど、僕はいずれこの町を出るのだから。真上からじりじり照りつける太陽は傾き、いつの間にか陽炎は見えなくなっていた。 「優は心が大人なんだね」 不意に陽菜が言った。それは学校の友人にも言われたことだ。どこか冷めていて達観している、と。もしかしたら僕が今こんな状況で、ある種の諦観の境地のようなものに達していたからなのかもしれない。 「それを言うなら陽菜だって。大人みたいな夢を語ってるじゃんか」  陽菜はこの町を出て暮らすのが夢だと言った。なりたい職業はないけど、自分のことを受け入れてくれる相手を見つけて、幸せな家庭を築きたいと。 「甘いなぁ優は。今どきの女子中学生はこれくらい現実的に将来を考えてるもんだよ?」  どこか小馬鹿にしたような口調にむっとするが、実際のところがどうなのか分からないから言い返せない。何かで読んだような気がするが、これくらいの年頃は女子の方が精神的に大人らしいし、そういうものなのだろうか。僕が何も言えないでいると、不意の方向から声が聞こえた。 「陽菜」
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