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振り向くと、すらりとした大人の女性が立っていた。夕暮れ時が近づいており、ちょうど日を背に立つようにしているせいか顔がよく見えない。ただ、その佇まいが僕には異様に見えた。
黒々とした髪に真っ黒なサマーワンピース。全身が黒いのだ。それでいてどこか冷たい空気を纏ったような雰囲気に、僕はぼんやりと幽鬼のようなイメージを抱く。
「お母さん」
ぽつりと陽菜は言った。ああ、言われてみれば似ていると思った。今にも消えてしまいそうな感じや、真っ直ぐ伸びた黒い髪。同世代の女の子の母親にしては若く見える気もしたが、別におかしいとは思わなかった。
「ありがとうね。もう行かなくちゃ」
それだけ言うと陽菜は勢いよく立ち上がり、母親の元にすたすたと歩いていく。こちらを振り向きながら小さく手を振り、にこやかに微笑む。
「あ、ああ・・・」
僕は曖昧に頷きながら手を振り返す。その時、僕は見てしまった。彼女の長袖ジャケットから覗く手首。
折れそうなくらい細く白い手首に、まるで日陰を落としたかのように丸く広がる黒い痣。それが2つも。
どこかにぶつけてできたような痣ではない。僕はなぜかそう直感できた。そして同時に、陽菜の言葉をぼんやりと思い出していた。
——分かるよ。私の家もメチャクチャ
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