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 家に帰ると祖母が夕食の支度をしているところだった。もう料理はほとんどできていて、皿に盛り付けている最中だった。 「あら、いいところに帰ってきたねぇ。そのサラダ持っててくれる?」  言われるがままに食卓に皿を運んでいると、ほどなくして玄関から祖父の声が聞こえてきた。仕事終わりだったのだろう。  ふと窓の外を見ると夕日は今にも山陰に隠れてしまいそうで、ひぐらしの声だけが真っ赤になった世界に響いていた。どこの田舎町もそうなのだろうが、街灯も少ないせいか日が沈んでしまうと辺りが急に暗くなる。  諸々の支度を済ませる3人で食卓を囲む。畳の部屋で食事を摂ったことがなかったからかどこかそわそわした気分になる。何年落ちかも分からない小さなテレビからは野球中継が流れていた。祖父が沢庵を噛む音と、かちゃかちゃと食器がぶつかる音だけが響く。 「そういや明日は因幡さんとこの祭りだわな。今年は町内会の当番じゃねえから忘れとったわ」  ぽつりと祖父が言った。それに対して祖母も「あぁ。そうねぇ」と曖昧に頷く。耳慣れない単語に僕が首を傾げていると地元の夏祭りがあることを教えてくれた。 「小さい神社だけど屋台があって花火も上がるんだよ。優ちゃんもこれくらい小さい頃に一回だけ行ったことあるけど、覚えてないよねぇ」  一片の記憶もなかったが、まだ仲が良かった頃の両親に連れられて夏祭りを楽しむ光景に思いを馳せる。そういえばこの夏は家の事情もあってお祭りに行ったことがなかった。 「そしたら小遣いやるから行ってこい。楽しいぞ」  ビールをぐびぐびと飲むと祖父がにかっと笑った。たしかにな、と僕は思う。両親の空気に呼応するように僕自身もどこか鬱屈とした気持ちでいたが、よくよく考えれば僕にできることは何もないのだ。それならばいっそ思い切り楽しまなければ損だと思えた。
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