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 目覚めたのは昼近くだった。こちらに来てから随分と生活リズムが狂ったようで頭が重く意識も混濁している。それでも目が覚めてしまったのは、夏の終わりとは思えないくらいの暑さだからだ。この部屋にはエアコンがなかった。 「あらあら。随分とお寝坊さんだこと」 祖母は今日はずっと家にいるようで、眠い目を擦る僕にせっせと遅めの朝食を出してくれた。暑さは相変わらずだけれど、じーじーと鳴く蝉の声はもうほとんど聞こえなくなってきていた。一人きりの食卓には風鈴の音だけが響く。 「お祭りは何時位からなの?」 そう聞くと「そうねぇ。いつもは大体17時頃かしら。19時には花火が上がるわよ」と返ってきた。  それならもう少し時間を潰す必要がある。そう思って僕は家を出て昨日に続いて見知らぬ町を探検することにした。もしかしたらまた陽菜に会えるかもしれない。そんな淡い期待もあった。  しかしながらそれは叶わなかった。というのも当時の中学生のほとんどは携帯電話も持っていない時代のことだ。互いの意思疎通の手段など全くなく、いくら気になっている女の子がいたとしても偶然居合わせるしか術がなかった。僕がもう少し上手にコミュニケーションを取っていたら家の電話番号のひとつでも聞けて、連絡を取ることができたかもしれないが、今更言っても仕方のない話だった。  空模様は相変わらずのかんかん照りで、蝉の声は少なくなったとはいえ茹だるような暑さは続いていた。背中や脇がじっとりとした汗をかくのを感じながら僕は、なるべく日陰を選んであてもなく路地裏をふらふらとしていた。たしか陽菜に会ったのはこのあたりだったはずだ。  あの時と同じようにもうもうと立ち込める陽炎を眺めながら辺りを見回した時だった。 「あら、あなたは・・・」
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