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 驚いて振り返る。そこにいたのは陽菜・・・ではなく陽菜の母親だった。昨日まるで幽鬼のように見えた風貌は、昼中の日差しを浴びているためか随分と違って見えた。陽菜と同じように透き通るような白さの肌は陽の光を拒絶するかのように光って見える。麦わら帽子の下の表情は穏やかで、どことなく陽菜に似た印象を受けた。 「あなた、昨日陽菜と一緒にいた男の子?」  僕は曖昧に頷いた。というのも、この母親を子供心ながらに警戒していたからだ。昨日の別れ際、僕の目に焼きついた陽菜の腕に残っていた痣。あれはどこかにぶつけてできるようなものではないと思った。何かで打ちつけられたような形をしていたからだ。  同時に陽菜の何気ない言葉がリフレインする。そうだ。あの時陽菜はこう言っていた。 ——分かるよ。私の家もメチャクチャ  僕の記憶では、まだこの時代に「虐待」という言葉はメジャーではなかったように思える。少なくとも今ほどニュースにはならなかった。  それでも僕は「虐待」という言葉は知らなくとも、それに類する行為が陽菜に対して行われているのではないか。という疑問を抱いていた。曖昧に浮かぶ事実を単純に線で結んだだけの推理だったが、僕はこの空想が一定のリアリティを持っているのだと半ば確信していたのだ。  だから、その母親がにっこりと笑った「陽菜と仲良くしてくれてありがとうね。あの子、あんまり友達の話を家でしてくれないから」と言った時は少し拍子抜けした気がした。
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