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「私、早起きが辛いだなんて思ったこと、ありません。叔母と住んでいた時から不規則な生活に合わせるのには慣れています。それに夫婦ですよ、私たち」
「……」
「ちゃんといいたいことが言える夫婦になりましょう」
「……さっちゃん」
その時、私に向けた少し寂しげな秀司さんの視線の意味を私はよく分っていなかった。
だけど後々になって分かる時が来る。
私が言っていることと求めていること、やっていることには矛盾があるのだということを。
「秀司さん」
「うん、分かった。これからはちゃんと言うね」
「はい」
憂いた顔はすぐに消え、秀司さんは柔らかな笑顔を向けてくれた。
「とりあえず今日は僕の作った朝ご飯を食べてくれるかな。あ、弁当もさっちゃんの分があるから」
「私の分? あ、ありがとうございます」
「味の保証はしないけどね」
「大丈夫です。私、好き嫌いないので」
「ははっ、そっか」
目の前に差し出された無機質なアルミの弁当箱には一面大きな海苔が乗っかっていた。
(のり弁っていうのかな、これって)
私があまり作らないタイプのお弁当だ。
いつも秀司さんに作っていたのは俵型のおにぎりに玉子焼きやウインナー、前日に作り置きしていた惣菜なんかをちょこちょこと詰めていた、いわゆる可愛い感じのお弁当だ。
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