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私同様、少し離れたところで秀司さんと子どもたちを見ている年配の女性たちがいた。手にモップやバケツを持っていることから清掃の人なのかなと思った。
「見て、寺岡先生だよ」
「本当だ。また小児病棟の子たちと遊んでいるね」
「寺岡先生、診察がない時はいつもああやって子どもと遊んでいるわよね」
「本当子ども好きなのねぇ。いつ休んでいるのかしら」
「そういえば結婚したんだっけ?」
「そうそう、なんでもめちゃくちゃ若い子と!」
「まさか本当に噂通りのロリコンだとは思わなかったわぁ」
「でもお相手、下平先生の関係者だって訊いたけど」
「え、まさか下平先生がダメだったからその代わりに身内の子と──?」
(え……)
別に訊こうと思って訊いた話じゃなかったけれど、急に叔母の名前が出てドキッとした。
「本当のところはどうなんだろうねぇ。まぁ寺岡先生と下平先生、仲良かったけど」
「でもまぁ、アレは完全に寺岡先生の片思いって感じだったけどねぇ」
「だわねー。下平先生って他の先生とも仲良さげだったから」
(……)
何故か足が固まって其処から動かなくなっていた。
だってそんなの考えたこともなかった。叔母と秀司さんの間に何かしらの関係があったかも知れない───なんて。
叔母は秀司さんのことをいい人だと褒めていたけれど、そこに恋愛感情を窺わせる気持ちは微塵も見受けられなかった。
『でもまぁ、アレは完全に寺岡先生の片思いって感じだったけどねぇ』
(でも秀司さんの方は叔母さんのことを?)
もしかして──という疑問がじわじわと胸の中を席捲して来た。と、同時に湧いて来た不快感。
今まで味わったことのない不思議な感情が次々に生まれて来て息苦しさを覚えた。
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